お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 おまけに電話もつながらず、探しに行こうにも家を空けるに空けられない状況だったのは、かなりヤキモキさせて心配をかけたにちがいない。

「ごめんなさい」

 再度謝罪の言葉を口にした。大知さんははっとした顔になり、私を腕の中にすっぽりと収める。

「強く言いすぎた。千紗が無事に帰ってきてくれたなら、それでいいんだ」

 優しい声色に胸が軋む。続けて大知さんは私の頬にそっと触れた。

「冷えてるな。疲れているだろうし、ひとまず風呂に入ってきたらどうだ?」

「……はい」

 返事をしたら大知さんは腕の力を緩めて私を解放する。ここは素直に彼の提案を受け入れよう。

「千紗」

 お風呂に行く支度をしようとしたら呼び止められ、振り向いた。大知さんはまだなにか言いたげな表情でしばし悩むそぶりを見せる。

「いや、なんでもない」

 突きつめたくなる気持ちをぐっとこらえ、自室に着替えを取りに行く。リビングに置きっぱなしにしていたスマホを確認すると不在着信が何件もあった。

 相手は案の定大知さんで、その後に姉からも何度かかかっている。メッセージもいくつか届いていた。

 それを見て、私は慌てて発信ボタンを押した。

『もしもし千紗? 大丈夫? 大知くんから電話があって、心配したのよ!』

 数コールで出た姉は珍しく息せききった様子だ。

「ご、ごめんね。大丈夫だよ。お姉ちゃんを見送った後、ちょっとぼんやりしてて」

 私の言い訳に、姉が電話の向こうで息を吐いたのが伝わってくる。
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