お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
『こちらこそ悪かったわ。千紗、私が来るからっていろいろ準備とかがんばってくれていたんでしょ? 疲れさせちゃってごめんね』

「そんなことないよ! 久しぶりにお姉ちゃんに会えてうれしかったし、大知さんだって一緒にお酒を飲めて楽しそうで」

 専門的な話もできて、私と一緒にいるよりも自然体で……。

 次々に言葉が浮かぶ一方で、早口に捲し立てた勢いは最後には削がれていく。わずかな沈黙が走った後、姉から口を開いた。

『大知くんに心配や迷惑をかけないようにね。あんな慌てた様子の彼、初めてよ』

 とにかく早く休みなさい、と付け足され電話でのやり取りは終わった。スマホを握りしめ、その場にうなだれる。

『千紗は裁判官の妻として条件がぴったりだもの』

 そう、なの?

『彼も私じゃなくて千紗と結婚してよかったって思ってるわ』

 少しずつ彼との距離が縮まっていると実感する反面夫婦にしては、お互いの距離感もまとう空気もたどたどしいところが拭えない。

 時間が解決してくれると思っていたけれど、もしかしたらずっとこのままかな。親しそうにしている姉と大知さんを見たから余計にそう感じてしまう。

 すぐさま首を横に振り、自分に気合いを入れ直す。

 私たちはお見合い結婚な上、姉が断ったから私が大知さんの相手になっただけ。だったら私がもっと努力して姉の言う通り、彼のいい妻にならないと。

 結婚してよかったと思ってもらえるように今以上に努力しなきゃ。時間だけで解決するわけがない。

 そこで姉と大知さん以外からもメッセージが届いているのに気づいた。川島先生だ。
< 86 / 128 >

この作品をシェア

pagetop