お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 異動先は首都圏の地方裁判所らしく、実家からあまり離れていない距離に安堵する。

 彼のためならどこにでもついていく覚悟はあるが、まったく知らない土地で新婚生活を始めるのはいささか不安だった。

 裁判官として転勤は避けられないにしても、面談で転勤先の希望を伝える機会はあるようなので、もしかしたら彼が私に気を使って首都圏を望んでくれたのかもしれない。

 どうしても年長組の卒園を見届けたかったので、先に引っ越しを終えた大知さんのもとへ三月末に遅れて合流する旨を告げると彼は快く了承してくれた。

『千紗が仕事を……子どもたちを大事にしているのは、わかっている』

 私の気持ちに寄り添ってもらえて嬉しかった。だからこれからは彼の人生の歩幅に合わせていこうと決心できたんだと思う。

 結婚式は大知さんの職場関係の人や私の親族や友人を招待するのを考えたときに、引っ越し前に行うのがいいだろうと結論づけ、三月末に決めた。

 入籍と結婚式は同じ日にして、挙式と引っ越しの準備に目が回りそうになる。

 必要最低限の家具しかないのは転勤が前提だからか、大知さんの性格か。彼のものしかない部屋に、私のものを混ぜていくのが不思議だった。

 結婚が決まってからも、実は関西の彼の一人暮らしの住まいを訪れたことはない。

『ベッドはどうする?』

 電話で引っ越しの打ち合わせをしている際に、一番気になった件ことを彼から切り出され慌てた。
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