お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 なに? 私?

 突然、自分の名前が出てきて混乱する。なんの話? お見合いのとき、お姉ちゃんになにを言われた?

『だから千紗が私の代わりに大知くんとお見合いしてよ』

 もしかして……。

『大知くん、千紗でもいいって』

 わからない。確信はない。けれど、もしも姉が私に大知さんとお見合いするように言った件についてだとしたら?

 心臓が痛みだし、しばらくその場にたたずんだままになる。中の電話は終わったらしく、一度この場を離れようとした。

 ところが、足を動かしたら金縛りが解けたような反動でよろけそうになる。

 ドアに手を突いて体を支えたものの、おそらく彼に気づかれた。身の振り方を迷っていたら、目の前の扉が開く。

「千紗?」

「あ、あのお茶を淹れたのでよかったら、どうぞ」

 大知さんに出迎えられ、とっさに用意していた言葉が口をつく。彼は私を部屋の中へ招き入れた。

「ありがとう、もらうよ」

 いつもと変わらない表情。妙に緊張しながら彼の作業用テーブルの端にそっとトレーを置いた。

 なんとなく大知さんから姉と電話していたことを切り出されると思った。

 どちらから連絡したのかはわからないが、このタイミングなら『さっき万希と電話していて』と話題に出てもおかしくない。

 けれど彼からその話はいっさいないのを感じ、私から口を開く。

「あの、大知さん。たしか今度の土曜日お仕事っておっしゃっていましたよね?」

「ああ。どうした?」

 真正面から彼に向き直る。
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