お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
「その日、昼過ぎから夕方まで有名な幼児教育専門の先生の講演会があるんです。園長先生の勧めもあって、職場の先生と参加してこようと思って」

 裁判官の身内として、政治や宗教など特定の思想が絡むものには行かないでほしいと言われる場合もある。こういった事情を踏まえ、彼にきちんと確認する。

「……何人で行くんだ?」

「へ? あ、はい。現地集合ですけれど私を入れて三人です」

 講演のテーマや内容うんぬんの前に、まさか参加人数を聞かれるとは思ってもみなかったので、面喰らう。

「その後、参加した先生たちと夕飯も一緒に食べてきてもかまいませんか?」

 大知さんの質問の意図が読めないまま彼に尋ねる。すると逆に今度は彼が、わざわざ聞くなんて、といった面持ちになった。

「もちろん。ただ、終わったら連絡をくれないか? 迎えに行くから」

「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ」

 すぐさま断りを入れる。大知さんも仕事だし、彼が先に終わるとも限らない。効率性を考えたらそんな約束はしない方がいい。タクシーでも拾えばいいだけだ。

「いいから。ちゃんと電話するように」

 ところが彼は譲らなかった。

『大知くん、千紗の保護者みたい』

 姉の言葉が不意に脳裏によぎり、私の心はかたくなになっていく。

「そんな……子どもじゃないんですから」

 どうして姉との電話の話をしないの? 私の名前も出ていたのに。
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