お見合い仮面夫婦の初夜事情~エリート裁判官は新妻への一途な愛を貫きたい~
 寝室に足を運び、ベッドに入ると体を丸めて身を縮める。

『どう、千紗? 私に大知くんを譲ってくれない?』

 あのときはとっさに否定したけれど、大知さんの気持ちは……。

 とはいえ、私と結婚している以上、彼は間違ってもお姉ちゃんを選んだりはしない。真面目で誠実な人だから。

『大知くんは性格からして結婚相手には誠意を尽くすだろうけれど、それは愛情なのか誠実さなのかわからないときがあるだろうし』

 優しくて誠実で、それ以上のなにを望むの? 彼と結婚したときから姉の代わりだってわかっていたはずだ。

 ギュッと目をつむり思考を遮る。ひんやりとした冷たいシーツの感触がいつも以上に身に染みるが、無理やり眠りについた。


 お弁当や食事の準備など家事もいつも以上に気合いを入れて、もちろん格好にも気を配る。

 結婚してすぐの頃のように気を張りつめていた。そして迎えた土曜日、今日も大知さんを玄関先で見送る。

「大知さん、いってらっしゃい」

 白の襟付きブラウスに薄桃色のマーメイドスカートを組み合わせ、メイクバッチリで彼に笑顔を向けた。

 ところが私とは対照的に、大知さんは眉を曇らせる。

「千紗、なにか無理してないか?」

 まさかの指摘に目を見開き、慌てて首を横に振った。

「してません。無理なんてしていませんよ!」

「……わかった」

 必死に否定する私を止めるように大知さんは私の頭に手を置く。大きな手のひらの温もりに、上目遣いに彼を見た。
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