【SR】幸せな結婚
夕食は義母が作っているが、今日は趣味の発表会で帰宅が遅くなると言われ、初めて亜弥が担当した。
小学生の頃から母子家庭だった亜弥にとって、料理は手慣れたものだった。
義母は洋食中心のメニューを好むのに対し、亜弥は和食を作るのが好きだ。
亜弥の母は貧しい育ちで、あまり洋食を口にしたことがなかったから、母親の作ることができる料理は殆どが和食だった。
その味で育った亜弥が和食を作るのは当然の流れだろう。
義母のいない食卓で、英太と義父はあからさまに亜弥の料理を褒め称える。
「たまにはこういう和食が食べたいよなあ。
母さんは殆ど作らないからな。亜弥が料理上手で嬉しいよ」
英太に続き義父も満足そうに言った。
「ああ、そうだな。もう亜弥さんに交代してもらった方がいいんじゃないのか?
あ、今のは母さんに怒られるから内緒にしとけよ、英太」
そう言って笑う二人に、亜弥は顔を赤らめ俯いた。
今までは、自分や母親の為にだけに作っていた食事を、こうして好きな人の為に作っている喜び。
そして、異性に自分の料理を褒めて貰えるのが、こんなにも嬉しいことだとは――。
小さな幸せが降り積もる新婚生活は、順調なスタートを切った。