【SR】幸せな結婚
「あの……少し待って貰えますか」
「ん?……ああ」
やっとのことでそう絞り出すと、亜弥は立ち上がって自分の部屋へと向かった。
ドレッサーの引き出しを開けた。
真新しい家具の匂いがする。
婚礼家具など立派なものは贈れないが、せめてものお祝いにと母が買ってくれたものだ。
旦那さんの前では、いつも身綺麗にしておきなさい――。
家具屋で支払いを待っている時、母はそう言って微笑んだ。
引っ越しの荷物はまだ全て片づいてはいなかったが、あれは確か、既に上から二番目の奥へしまったはずだ――。
レールから外した引き出しを抱え、中をかき乱すようにして探す。
こんなに早く、この日が来るなんて……。
目的の物を見つけると、そっとスカートのポケットへとしまい込んだ。