【SR】幸せな結婚
「お待たせしました、すみません」
義父は、亜弥がお手洗いにでも行って来たと思っているのだろう。
新聞を広げ、大して気にも留めていない様子でああ、とだけ言った。
椅子を引き、義父の目の前に座った。
ようやく少し落ち着いた亜弥は、さきほど部屋から持って来た物を手のひらに乗せて差し出した。
「これ……覚えてますか?」
手巻き式の、銀色が少しくすんだ懐中時計だ。
メンテナンスなどわからない亜弥に放置されたまま、時は7時を10分ほど過ぎたところで止まっている。
「……私の、時計か?」
新聞を畳み、義父は懐かしそうな表情でそれを手にした。