【SR】幸せな結婚
「そうです。
実は、私が勝手に持って帰ってしまって――。
本当に……ごめんなさい」
「そうだったのか。
いやあ、てっきり無くしたとばかり思っていたからね、まさかコイツにまた会えるなんて……本当に嬉しいよ。
ところで……どうしてこれが私のものだと?」
義父は不思議そうな顔で亜弥を見つめた。
「……机の上に、忘れて行ったんです。
本当は、追いかけて渡すつもりでした。
でも欲しくなってつい――」
亜弥は唇を噛みしめた。
出来心とは言え、そんなことをした自分を許してくれるだろうか。
義父は、懐中時計を手にしたまま、難しい顔をした。
「忘れて行った、とはどういうことだろう。
私と亜弥さんは、面識がなかったのでは……」
理解できないという表情でアールグレイを含んだ。
亜弥も同じように一口含むと、遠くを見つめ、脳内に蘇る思い出を懐かしんだ。