【SR】幸せな結婚
次第に、寿生が触れている部分から感じる温度は、父のぬくもりから異性へのぬくもりへと変化していた。
40歳を過ぎた男の、独特の匂い。
心配そうに見つめる眼差しと的確な指示出し。
息が触れあうほど密着し、初めて異性に肩を抱かれたぬくもり。
保健室に行くまでのたった数十分の時間だったが、亜弥はあっというまに恋心を抱いたのだった。
以来、寿生の姿を追いかける日々が始まった。
3年5組の担任で、国語の教師だと知る。
自分の担任も国語の教師だった亜弥は、寿生に授業を教わることはまずない。
部活も剣道部の顧問で、運動が苦手な亜弥が入部するなど、到底できるわけがなかった。
愛しい人と、何一つ繋がりを持てない亜弥。
だが、見つめているだけで幸せだった。
休み時間、遠くに寿生を見つけるだけで喜び、廊下ですれ違っただけで頬を染めた。