【SR】幸せな結婚
近くにあった薄手のカーディガンを羽織らせようと手を伸ばしたその時、突然亜弥に抱きつかれた。
「先生――!」
甘くほのかに鼻をかすめる、薔薇の香り。
後ろで括った髪は、取り乱したからか、うなじや耳元に後れ毛が幾筋も垂れている。
染髪料のダメージを受けていない艶やかな黒髪はさらさらと肩を落ち、純潔な亜弥に見事な色気を演出した。
「英太さんが出張から戻ったら、もうおしまいです。
私、真剣に英太さんの手を振り払ってしまいそうで怖い……。
お願い、先生……一度だけでいいの――」
あまり慣れていないのか、亜弥のキスは力強く寿生の唇にぶつかった。
久々に感じる、柔らかな感触。
亜弥が懸命に小さく吸い付く度、静かな部屋にその音が響いている。
教師であり夫である前に、寿生もやはり男であることを否定できなかった。
理性はいつしか頭の隅へと追いやられ、気付けば亜弥のスリップの紐を、肩の曲線に合わせ滑らせていた。