私を、甘えさせてください
『素敵な人』
はぁ・・・・。


ため息とともに、読み終えた小説を閉じる。


このところ目に止まるのは、甘えさせてくれるオトナの男性が出てくる物語ばかり。


でもその理由がわかったのは、つい最近。

のめり込む物語の共通点に気づいた時、ふっ、と心に湧いたのは。


『私も、甘えさせてほしい』


甘えさせてほしい。
甘えていいよと、言ってほしい。


でも、もしかしたら。

単純に、疲れているからじゃないか。
だからそう感じるんじゃないか。


湧いてきた気持ちを否定する。


そして思うのは。

本当に『甘えさせてくれる男性』が現れたとして。

私はその人に甘えることができるの?
そもそも、甘えるって何だっけ?

それすらよく分からない。


なのに、湧いてくる『甘えさせてほしい』願望。


困ったな・・・・自分に苦笑する。


けれど、出会ってみたいのだ。
私を『甘えさせてくれる男性』に。


どんな男性だろう。

歳上? 
社会的に地位がある人? 
お金持ち?

ありふれた貧相な思い込みしか出てこない。


その時、逆の感情も浮かんできた。

『甘えさせたくなる女性』って、どんな女性なんだろうか・・と。


少し考えて、すぐにやめた。
どう考えても、私は当てはまらない気がしたから。


仕事に明け暮れているうちに、40になった。
そのことに後悔は無い。
管理職にだって、着くことができたのだし。


そんな私が甘えたい願望でいっぱいだと知ったら、きっと周りは引くだろうな・・・・。


オフィスのメンバーを思い浮かべると、近い年齢層は当然既婚者ばかりだ。

迂闊に恋すると、不倫まっしぐらだ。


「あーぁ・・・・」


心の声が、思いの外ボリューム大きめで声に出てしまい、隣の席にいたランチ中の若い男性がギョッとした。


戻るか。
仕事しなきゃ・・。


読み終えた文庫本をバッグにしまい、私はレシート片手に立ち上がった。

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