私を、甘えさせてください
「空川様、いらっしゃいませ」

「こんばんは。いつも急で申し訳ないです」


いつの間に予約を・・。
おまけに、慣れていそうな口ぶり。
そして、なんだか高そうなお店。


「あの・・・・」

「ん? なに?」

「お支払い・・私でいいんですよね?」

「あぁ。俺が誘ったんだから、俺が払う」

「でも、それじゃお詫びの意味が・・・・」

「いいからいいから」


何飲もうか・・と、アルコールのメニューをめくっている。


「空川さん、クルマですよね?」

「俺、今夜ここに泊まる」

「えっ、泊まる?」

「あー、そっか・・・・飲んだら送っていけないか。明日土曜だし、永田さんも泊まればいい」

「ええっ!!」


このレストランは、横浜のラグジュアリーホテルの中にある。
だからって・・。


「俺と一緒の部屋ってわけにはいかないから、追加で取るよ」

「いえ・・私、帰れますから・・・・」


その訴えが聞こえたのかどうかも分からないまま、白ワインと前菜がサーブされた。


「美味そう! じゃ、乾杯」


カチリ、とグラスが軽く重なる音がした。


「永田さん、お酒強い?」

「まぁ、人並みに・・」

「じゃあ強いってことだ。先に酔っちゃったらごめんね」

「え? ごめんね・・って言われても」

「ま、食べようよ」


空川さんが予約してくれたフレンチのコースは、味がとても好みで、どれも美味しかった。

順調に食べ進めていたはずが、途中から空川さんの様子が変わってきた。

明らかに酔いが回っている。


「空川さん、大丈夫ですか?」

「ん?」

「結構、酔ってますよね?」

「そう・・かな。永田さんの前で酔い潰れる前に、レストランを出た方がいいか」


力のない笑顔を向けられ、私も苦笑混じりの微笑みを返す。


ひとまず部屋まで送ろうと思い、スタッフに支払いをお願いすると、会計は既に済んでいると言われた。

もう・・・・抜かりないんだから。

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