私を、甘えさせてください
「そっか・・・・。じゃあ、俺の話を先に聞いてくれる?」

「え?」

「俺は俺で、全然おもしろい話じゃないけどな」


空川さんは、前職でヘッドハンティングを専門にしていたそうで。

優秀な人材を見極める能力が高かった空川さんにはオファーが途切れることはなく、国内どころか、必要があれば海外を回ることも多かったそうだ。


「で、毎度言われるわけだよ。
『他に好きな人ができた、その人は私を必要としてくれる、あなたは私を何とも思っていない』ってね。

俺は自分の仕事に意義を感じてたし、彼女のために他の仕事を選ぶつもりもなかった。
それをはっきり言ったこともあるから、冷たい男だと思われてた」

「口を挟んでもいい? ・・それなのに、どうして転職することになったの?」

「ボスが変わったんだ。方針も180度変更になって、ちょっとついていけなくてさ・・。
潮時だと考えていたところで、おたくの常務にヘッドハンティングされたわけだ」

「そう・・・・だったの」

「そしたら、俺の前に美月が現れた。結婚してないって聞いて、嘘だろ? 何で?って。
昨日から一緒にいて、ずっと理由を探してるんだけど、答えが見つからない」


はぁー、と私はため息をついた。


「美月?」

「なんだか嫌になった」

「何が?」

「似てて嫌になった」

「どこが?」

「んーーー、全部?」


何だよそれ、と空川さんが笑う。


「聞いてもいい? 美月はどうして?」

「私は・・・・甘えるのが下手過ぎたから・・かな」

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