私を、甘えさせてください
「美月、出張って何だ?」


ふたりを見送った後、井川が私に尋ねた。


「あ、うん。来週採用イベントがあって、そこで人材開発についてもプレゼンすることになっていて」

「ふーん・・・・後で部下に聞くか」

「もう準備は進んでるはずだから、すぐに報告があると思う。明日、合同ミーティングも予定されてる」

「了解。じゃ」


ひとりになったミーティングルームで、ふーーーっ、と大きくため息をつく。


入社して2年後くらいだったろうか。
井川から告白されて、1年ほど付き合っていた。

もう15年も前の話だ・・。


いまさら、これといって何のわだかまりも無いけれど、多少の気まずさはあった。

とはいえ、別れを言い出したのは井川だから、向こうは何とも思っていないはずだ。


「課長」


部屋のドア越しに、相澤さんが声を掛けてくる。


「そろそろ行きましょ。面談、始まりますよ」

「あ、うん、そうだね。ありがとう」


フロアを移動しながら、相澤さんがひとり言のように話し始めた。


「さっきの朝礼で、課長には、本部長みたいな人がぴったりだなーって思って見てました。
井川さんでしたっけ、もうひとり・・・・なんか上から目線ぽい感じだったな」

「相澤さん、相変わらずチェック早いね」


上から目線・・ね。思わず苦笑した。


『彼女は俺にいてほしい・・って、俺が必要だ・・って甘えてくれるんだ。美月は俺がいなくても、ひとりで大丈夫だろう?』

そう言ったのは、井川だったのを思い出した。

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