私を、甘えさせてください
困ったな。
でも、今からの調整は難しい。


デスクに戻ると、相澤さんが不満げな顔でやって来た。


「さっき井川課長が来て、『永田課長の新幹線とホテルを教えてくれ』って。何なんですか? あの人」

「教えたの?」

「・・・・教えました。すごい圧力だったので・・すみません」

「相澤さんは悪くないよ。気にしないで」


同じ新幹線に、同じホテルか・・・・。
うんざりだ。


「美月」


後ろから、井川の声がした。


「何でしょうか、井川課長」

「来週の件で、ちょっと話をしたいんだけど」

「はい。何か調整事項でもありましたか?」

「ここじゃ何だから、会議室・・いいかな」


小さくため息をつき、指差された会議室に入る。
あからさまな態度に、井川も苦笑いした。


「そんな嫌そうな顔するなよ」

「管理職ふたりだけで話していたら、周りは何かあったと思いますよ。担当者に余計な不安を与えるのが嫌なんです」

「不安ね・・ちょっとくらい緊張感を持たせるのは悪くないと思うけど」

「ところで、用件は?」


なるべく手短に済ませたかった。

こんなふうにふたりで話しているのが、空川さんの耳に入るのも避けたいと思ったから。


「いま、男いるのか?」

「は?」

「どうなんだ?」

「どう・・って」

「結婚してないって聞いた。相変わらず、ひとりで頑張ってるってところか」

「余計なお世話よ」

「なぁ美月、俺と付き合わないか?」


嘘、でしょ・・・・何を言い出すの?

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