私を、甘えさせてください
私は週明けの採用イベント準備で、空川さんは広島支社への出張があり、私たちはプライベートで会う時間がしばらく取れなかった。

お互いに『いまは忙しいから』と伝えたものの、実際は時間が取れなかったのではなく、取らなかったのだと思う。

少しだけ、距離をおいた方がいい気もして。


そして迎えた土曜の朝、私は明日の午後に大阪に移動する予定で、今日は時間があった。

でも、空川さんが広島から東京に戻るのは今日になっていたから、今夜会うにしても疲れているのではないかと、連絡するのをためらう。


だけど。
会いたいし、触れたい。
私にも、触れてほしい。


一度距離を置いてしまうと、気持ちを伝えるのが難しくなる。

いまの状況だと、より空川さんの方が言い出しづらいんじゃないかと思った。


だからシンプルに、駆け引きもせず、いま感じていることだけ伝えようとスマートフォンを手にする。


電話の呼び出し音が、1回、2回と鳴る。
3回目の途中で、それが途切れた。


「もしもし、空川さん?」

「・・・・み・・づき?」


電話の向こうから、眠そうな声が聞こえた。
昨日の夜、遅かったのだろうか。


「ごめんなさい。まだ寝てたのね」

「・・うん。昨日の夜の最終便で帰って来たから」

「え? いま東京?」

「・・家のベッドだよ。それよりどうした?」

「あ、うん・・・・家にいるなら、今から行ってもいい?」

「いい・・けど、来たらベッドに引き摺り込むよ」

「・・それでもいい。すぐ、行くね」

「待ってる」

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