私を、甘えさせてください
私は、来客用スペースで空川 和真に会ったと話すと、その名前を聞いた瞬間に彼の顔色が変わった。


「え・・どうしてだ。JHコンサルのシニアパートナーって言ったら、取締役レベルだ。
直接クライアントに、それも担当に会いにくるなんてありえない・・・・」


何か考えを巡らすように、口を右手で覆って目を閉じている。


「拓真?」

「あ・・ごめん・・・・何でもないよ。それより『おかえり』のキスは?」


彼は自分の唇を指差し、催促する。

ほんの少し、触れるくらいにキスして離れようとすると、離れないように彼が私の後頭部を軽く抑え、唇を割って舌を入れてきた。


「・・んっ・・ん・・」


「美月・・ずっと俺だけを見て・・・・約束だよ」


そう言うと、唇は首筋を這い、指は服の下に滑り込んだ。


「あっ・・ねぇ、ご・・はん」

「ごめん・・こっち先でも・・いいかな」


いつもより、触れる感覚が強い気がした。
荒い・・とでも言えばいいのか。

当然、それは私が空川 和真に会ったと言ったのが理由のはずで。


・・・・嫉妬。


嫉妬は、不安の裏返しだ。

彼は、私が誘われたか、そうじゃなければ今後誘われることに気づいているのだろう。


『行かないで』


少し苦しそうな表情から、言葉にならない想いが伝わってくる。


「ねぇ美月、あいつを見てどう思った?」

「・・どう・・って何も・・あぁ・・ん・・はぁっ」

「美月にこんなふうに触れていいのは、俺だけだから」

「・・ふ・・うん・・あぁ」


何も思わなかったというか、彼とは全く違うタイプだと感じた。

無理強いはしないけれど少し強引な・・リードされたい女性が好みそうな、大人の雰囲気の男性だろうか。

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