私を、甘えさせてください
あと10分ほどで18時だ。
私はエントランスで迎えを待つ。


「知りたいのはふたつだ。
美月を誘った理由と、兄貴がシニアパートナーに就いた理由だ」

「シニアパートナーに就いた理由?」

「兄貴、能力は高いのに経営にはまるで興味が無かったはずだ。だから、ひとりだけ特別な役職に就いていたのに、どうしてかと思ってね」

「本部長、課長ひとりで・・本当に大丈夫でしょうか? 強引に迫られたら・・」

「心配ない。俺が迎えに行くから。
兄貴も、さすがにレストランじゃ迫ったりしないだろうし」


滑り込むように、黒塗りのセダンがエントランスに横付けされる。

右側の後部座席から降りた空川 和真が、回り込んで左側の後部座席のドアを開けた。


「どうぞ。レストランまでお連れしますよ」

「ありがとうございます。失礼します」


私が乗り込んだのを確認してドアを閉め、自身も後部座席に戻った。


「トルコ料理は初めて?」

「はい。でも世界三大料理と言われてますよね・・意外でしたけど、楽しみにしていました」

「意外?」

「てっきり、フレンチか和食あたりかと」

「ああ、あなたのようなキャリアのある方は、その辺りを食べ飽きているでしょうから。
トルコ料理は私の思い出の食事でもあり、ぜひあなたにもと思いましてね」

「そうでしたか」


15分ほど走ったところで、レストランに到着した。

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