私を、甘えさせてください
「話を戻しましょうか。
川上は、しばらく前から拓真を目障りだと言っていました。実績にモノを言わせて、意見してくる生意気なヤツだと。

自分を脅かす存在になる拓真を、潰したいと考えていた。それを逆手に取ったんです」


空川 和真は川上に近づき、流した噂を拓真がやったとでっちあげて、追い出すこともできる・・と持ちかけたという。

実の兄から・・弟を陥れるような提案がされると思わなかった川上は、旨味のある話にすぐに飛びついたそうだ。


そうやって川上の懐に入り込み、油断した川上から、会社のカネを動かしている発言を次々と得ることができ、全ての証拠を揃えることができた・・と。


「これによって、川上を追放するという会社としての大きな目的は達成することができました。

ただ・・優と拓真を犠牲にしてしまった。ふたりは、何も知らずに巻き込まれたんです。
優には、私から伝えます。拓真には、あなたから事の次第を伝えてもらえませんか?」

「私から・・ですか?」

「はい。そして、私が謝りたいと言っていると伝えてください。
あなたに、そのきっかけを作ってもらいたいのです」

「そういうことなら・・お引き受けします」

「ありがとう。
今後は、経営に専念します。ずっとオーナーには経営陣に加わってほしいと言われていたんですが、この件はどうしても自分でカタを付けたかったんです。
優と拓真を・・川上の好きなようにさせたくなかったから」


トルコチャイを飲み終え、私たちは店を出た。


「永田さん、弟が迎えに来たようですよ」


そう言って、路肩に停めたクルマに寄り掛かかる拓真を指差した。


「じゃ、私はここで。ごちそうさまでした」

「こちらこそ、今夜はありがとう。拓真に・・よろしく」

「はい」


会釈して別れ、私は拓真の元へ向かった。

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