私を、甘えさせてください
常務から、赴任先は香港になると言われた。
内示も、週明けには出るらしい。


香港・・。

東京から飛行機で5時間。

遠くはないけれど、簡単には行き来できない距離だ。


彼には・・いつ話そうか。


手元のカレンダーを見ながらぼんやり考えていると、スマートフォンにメッセージの通知が届いた。


『今夜、外で食事しないか?』


彼からのメッセージ。

ちょうどいいタイミングかもしれない。
今夜、話をしよう。


『いいね。楽しみにしてる』


そう返した。



私たちは、彼の外出先の最寄駅で待ち合わせた。


「美月、何か食べたいものある?」

「そうだな・・食べたいものじゃないけど、景色が綺麗なところに行きたい」

「じゃあ、ホテルのレストランにするか。ちょっと待ってて」


そう言って、スマートフォンで予約を取ろうとした彼を止めた。


「ごめん、レストランはいいかな。ご飯、あんまり食べれそうにないから」

「どうした、体調良くない?」


赴任の話をしたら、きっと彼だって食べる気を失くすと思ったのだ。


「そうじゃないけど・・せっかくだから、ゆっくり話したい」

「そう・・か。じゃあレストランじゃなく、バーにするか」

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