一面の落とし穴

完全包囲③

ある日の朝目が覚めて支度をしようとした瞬間、黒い影に囲まれた。

とうとう僕の部屋まで来たのだ。

何としてでも会社に行こうと銃撃をうけないよう慎重に支度をした。

僕は課長という役職であり責任感を持って仕事をしなければならない。

みんなから必要とされる存在にならなければならない。

悩んでいる後輩や同僚がいれば話を聞いてあげなければならない。

もし僕の部署で誰かが辞めるとなれば、他の従業員にも負担がかかる。

他の部署から何を言われるかわからない。

今まで努力してきたことが水の泡になるかもしれない。

もちろん黒い影にしてみれば、そんな考えはどうでもいいことだった。

僕は銃撃を受け部屋の真ん中で崩れ落ちた。

本当に何もできなくなってしまった。

しばらく僕は床に倒れていた。

その間も黒い影は僕の体を銃口で押し付けるものもいれば、銃口から出てきた刃物で体内を掻き回すものもいた。

10分ほどして残りの僅かな体力を振り絞り会社に電話をした。

事情を説明すると会社側も理解を示してくれた。

今日はゆっくり休むようにとのことだった。

その後も一つ一つの動きに合わせるかのように黒い影は油断を許さなかった。

何をするにも時間がかかった。

僕が少しでも気を抜くとまた銃撃されるからだ。


ある日会社に行くと先輩に呼び出された。

彼女は同じ部署の先輩だ。

これまでにも僕のことを心配して、いろいろと話しかけてくれた。

実は私もあなたと同じ体験をしたことがあるの。

彼女はそう言うと一呼吸おいて覚えている限りのことを僕に話してくれた。

僕は黒い影が彼女の方に向かないか気にしながら話を聞いた。

私はあなたほど黒い影の数は多くないけどと言ったが、彼女の体験も僕に劣らないものだった。

そして僕は彼女の周りにも黒い影がいることに気づいた。
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