くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
「キルビス伯父様! わたくし、悪役令嬢になりたいですわっ! いろんな男に媚を振り撒くヒロインより、悪役令嬢の高潔さ! わたくし、感銘を受けました!」
頬を紅潮させて言うベアトリクスを、キルビスは目を細めて見る。
「ふーん、それでその髪型なの?」
「ええっ! 素敵でしょう? 叔父様、わたくし悪役令嬢に見えますでしょう?」
うふふっと、ベアトリクスは侍女が気合いを入れて巻き上げてくれた髪をキルビスに見せ付けるように揺らす。
びょんびょん、縦ロールになった金髪が揺れる。
髪が揺れるのと同じようにベアトリクスの気持ちも弾んでいた。
異世界の物語を気に入ったベアトリクスのために、ある日キルビスが持ってきてくれたのは島国の貴族の男性を主人公にした壮大な物話。
文字が読めなくとも内容が分かりやすい、動きのある絵が描かれている漫画という本だった。
漫画を読み進めるごとに、ベアトリクスはうっとりと感嘆の息を吐く。
「恋慕う女性の面影を持つ幼い姫を慈しみ、容姿知性共に最高級の、理想の女性に育てて娶るだなんて……そこまで想ってくれる殿方が夫となったら、他の女性に目移りするのはいただけませんが、素敵な殿方に愛されるのは幸せですわね」
親の言う通り、家の為に婚約を交わすのが魔貴族の子女は当たり前となっていたため、この漫画の主人公や女性達のような生き方は驚きだった。
理想の相手を育成して伴侶にするなんて考えは思いもよらない事で、ベアトリクスの目からは鱗がポロポロ落ちていく。
「キルビス伯父様には理想の方っていらっしゃいます? わたくし、受け身な生き方は嫌ですわ。自分の夫となる殿方は、理想通りに育成していきたいと考えております」
外見は普通でも野暮ったくとも、磨いていけばきっと理想通りに光輝いていく。
中身は多少理想とはズレていても調教していけば、ベアトリクスだけを愛し忠誠を誓う素敵な殿方となる。
素敵な殿方との結婚を想像したベアトリクスは、中庭をスキップしてはしゃいでしまった。
***
「育成ねぇ……何か違う気もするけど」
十二歳を過ぎたばかりの姪が、育成や調教で理想の男を作り上げると瞳を輝かせて語るのは、彼女の今後が少々心配になってキルビスは苦笑いを浮かべた。
だが、ほぼ自分の思い描いた結果にはなった様だ。
あの愚かな男が、「娘を魔王の妃に」などと馬鹿な事を夢見だした頃より行ってきた刷り込みが漸く実を結び、妹の忘れ形見であるベアトリクスの興味はあの危険な男へと向くことは無くなった。
見目だけは麗しい無慈悲な魔王は、寵を得ようと近付く数多の女を非情に扱い切り捨てる。
強い魔力を持った自分の娘を魔王妃にと差し向けた魔貴族、自ら望んで魔王に身を差し出した娘は皆、魔王と一夜を過ごした後、魔王の魔力に耐えられずに内部から破壊されて、無惨な亡骸となっていた。
熾烈な王座争いの末、兄弟の魔力を喰って規格外に強大な魔力を持った現魔王の妃など、魔王が自らの魔力を与えて免疫を付けさせた女でなければなれないだろう。
だが、魔王に魔力を与えられるまで気に入られる女は皆無だ。
仮にいたとしても、気に入られた女は与えられた魔力によって魂までも魔王の存在に縛られる。
なんと可哀想で不幸な存在だ。
可愛い姪には、魔王に振り回される運命を歩ませたくも無い。何よりもくそムカつく魔王に恋心を抱くベアトリクスは絶対に見たく無いのだ。
「これで……完全に魔王は対象外となったな」
魔国の宰相キルビスは、理想の男性像について語るベアトリクスに相槌を打ちつつ、ニヤリとほくそ笑んだ。
頬を紅潮させて言うベアトリクスを、キルビスは目を細めて見る。
「ふーん、それでその髪型なの?」
「ええっ! 素敵でしょう? 叔父様、わたくし悪役令嬢に見えますでしょう?」
うふふっと、ベアトリクスは侍女が気合いを入れて巻き上げてくれた髪をキルビスに見せ付けるように揺らす。
びょんびょん、縦ロールになった金髪が揺れる。
髪が揺れるのと同じようにベアトリクスの気持ちも弾んでいた。
異世界の物語を気に入ったベアトリクスのために、ある日キルビスが持ってきてくれたのは島国の貴族の男性を主人公にした壮大な物話。
文字が読めなくとも内容が分かりやすい、動きのある絵が描かれている漫画という本だった。
漫画を読み進めるごとに、ベアトリクスはうっとりと感嘆の息を吐く。
「恋慕う女性の面影を持つ幼い姫を慈しみ、容姿知性共に最高級の、理想の女性に育てて娶るだなんて……そこまで想ってくれる殿方が夫となったら、他の女性に目移りするのはいただけませんが、素敵な殿方に愛されるのは幸せですわね」
親の言う通り、家の為に婚約を交わすのが魔貴族の子女は当たり前となっていたため、この漫画の主人公や女性達のような生き方は驚きだった。
理想の相手を育成して伴侶にするなんて考えは思いもよらない事で、ベアトリクスの目からは鱗がポロポロ落ちていく。
「キルビス伯父様には理想の方っていらっしゃいます? わたくし、受け身な生き方は嫌ですわ。自分の夫となる殿方は、理想通りに育成していきたいと考えております」
外見は普通でも野暮ったくとも、磨いていけばきっと理想通りに光輝いていく。
中身は多少理想とはズレていても調教していけば、ベアトリクスだけを愛し忠誠を誓う素敵な殿方となる。
素敵な殿方との結婚を想像したベアトリクスは、中庭をスキップしてはしゃいでしまった。
***
「育成ねぇ……何か違う気もするけど」
十二歳を過ぎたばかりの姪が、育成や調教で理想の男を作り上げると瞳を輝かせて語るのは、彼女の今後が少々心配になってキルビスは苦笑いを浮かべた。
だが、ほぼ自分の思い描いた結果にはなった様だ。
あの愚かな男が、「娘を魔王の妃に」などと馬鹿な事を夢見だした頃より行ってきた刷り込みが漸く実を結び、妹の忘れ形見であるベアトリクスの興味はあの危険な男へと向くことは無くなった。
見目だけは麗しい無慈悲な魔王は、寵を得ようと近付く数多の女を非情に扱い切り捨てる。
強い魔力を持った自分の娘を魔王妃にと差し向けた魔貴族、自ら望んで魔王に身を差し出した娘は皆、魔王と一夜を過ごした後、魔王の魔力に耐えられずに内部から破壊されて、無惨な亡骸となっていた。
熾烈な王座争いの末、兄弟の魔力を喰って規格外に強大な魔力を持った現魔王の妃など、魔王が自らの魔力を与えて免疫を付けさせた女でなければなれないだろう。
だが、魔王に魔力を与えられるまで気に入られる女は皆無だ。
仮にいたとしても、気に入られた女は与えられた魔力によって魂までも魔王の存在に縛られる。
なんと可哀想で不幸な存在だ。
可愛い姪には、魔王に振り回される運命を歩ませたくも無い。何よりもくそムカつく魔王に恋心を抱くベアトリクスは絶対に見たく無いのだ。
「これで……完全に魔王は対象外となったな」
魔国の宰相キルビスは、理想の男性像について語るベアトリクスに相槌を打ちつつ、ニヤリとほくそ笑んだ。