くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
「ねえ、山田さん」
「はい?」
「彼氏、いるの?」
給湯室で珈琲を淹れてる理子の後ろから突然声をかけてきたと思ったら、なんの脈絡もなく男性社員に聞かれた。
確か、彼は同期入社の安達さん、だった。
新入社員の頃から髪の毛を茶色に染めて注意されているのに、直さず仕事をバリバリこなして今では染髪を黙認させているという強者。
部署も違うし、今まで挨拶以外は話したことがない上に、お洒落なタイプの彼と平凡というジャンル違いの理子にどうしてそんなことを聞くのか。
個人情報を教えるのは気が引けるが、無碍に扱って関係が悪くなるのも、今後の仕事上困るかもしれない。
「えーと、彼氏はいないけど? 安達さんは確か可愛い彼女がいるんだっけ?」
「彼女とは先月別れたんだよ。山田さん、この頃、すごい綺麗になったから彼氏が出来たのかと思ったんだ」
(ええっ、綺麗になった?)
困惑して首を傾げた。
最近、髪の毛に艶が出来て肌の艶も良くなったからだろうか。
それは魔王と侍女達のおかげで維持出来てるだけなのだが。
彼氏というか婚約者はいます、と答えようか迷う。
妃の印を受けたということは、魔王様は婚約者ではなくて、もうすでに旦那様になるのか。
「そっか。いないのかー。あ、じゃあ、好きな人でもできた?」
珈琲をポットから保冷マグに入れる手を止めて、理子は安達さんへ困惑した視線を向けた。
「うん、まあ、好きな人はいます。でも、何で?」
「好きな人がいるの? でも、いいや。……山田さんが気になってしかたないです。お試しでもいいから、俺と付き合ってもらえませんか」
彼は湯室で何を言ってるのかと、何度も理子は目蓋を瞬かせた。
冗談にしては、安達さんは真顔で真剣な目をしていた。
熱ぽい目で見詰められて、逆に理子の頭は冷静になっていく。
きっと、何も無ければ雰囲気イケメンな安達さんに冗談でも告白されて、嬉しくて有頂天の気分になっただろう。
しかし、全く嬉しくは無かった。
異世界に居る旦那様の方がずっと、誰よりも素敵で格好良くて自分を愛してくれているのだから。
それに、浮気するつもりがなくとも仕事以外で他の男性と親しくしたら……恐ろしい。
魔王シルヴァリスは、理子を異世界へ連れ去り監禁して凌辱まがいの行為を悦んで行う。下手したら一生鎖で繋がれるかもしれない。
独占欲の塊の様な魔王に、他の男からアプローチされたと知られたら危険だ。
(駄目駄目駄目! 今すぐきっぱり断らなきゃ怖い! 魔法でやり取りを聞いているかもしれないし)
内心、血の気が引いた理子は安達さんに向かって頭を下げた。
「ごめんなさい。付き合うのは無理です」
断る理由が思い付かず、理子は直球でお断りをする。
「そっか。いきなり告白したら、そうだよね。いきなりじゃ困らせるかと思ったけど、誰かに先を越される前に、言っておきたくて」
苦笑いを浮かべて、安達さんは頭を掻く。
「ごめんね、変なこと言って。山田さんの気が変わったら、いつでも連絡してきて」
安達さんは、理子の手のひらへ押し付けるように携帯電話の番号が書かれたメモを渡した。
給湯室から出て行く安達さんの後ろ姿を見送ると、理子は急に疲れてきて、はーと息をついた。
午前中だけでこの疲労感。
急に声をかけられる事が増えたとは、モテ期にでも突入したのかもしれない。
こんな調子で、あと半日を乗り切れるだろうか。
自意識過剰だと思いつつ、誰かの視線を感じる度に不安になってしまった。
「はい?」
「彼氏、いるの?」
給湯室で珈琲を淹れてる理子の後ろから突然声をかけてきたと思ったら、なんの脈絡もなく男性社員に聞かれた。
確か、彼は同期入社の安達さん、だった。
新入社員の頃から髪の毛を茶色に染めて注意されているのに、直さず仕事をバリバリこなして今では染髪を黙認させているという強者。
部署も違うし、今まで挨拶以外は話したことがない上に、お洒落なタイプの彼と平凡というジャンル違いの理子にどうしてそんなことを聞くのか。
個人情報を教えるのは気が引けるが、無碍に扱って関係が悪くなるのも、今後の仕事上困るかもしれない。
「えーと、彼氏はいないけど? 安達さんは確か可愛い彼女がいるんだっけ?」
「彼女とは先月別れたんだよ。山田さん、この頃、すごい綺麗になったから彼氏が出来たのかと思ったんだ」
(ええっ、綺麗になった?)
困惑して首を傾げた。
最近、髪の毛に艶が出来て肌の艶も良くなったからだろうか。
それは魔王と侍女達のおかげで維持出来てるだけなのだが。
彼氏というか婚約者はいます、と答えようか迷う。
妃の印を受けたということは、魔王様は婚約者ではなくて、もうすでに旦那様になるのか。
「そっか。いないのかー。あ、じゃあ、好きな人でもできた?」
珈琲をポットから保冷マグに入れる手を止めて、理子は安達さんへ困惑した視線を向けた。
「うん、まあ、好きな人はいます。でも、何で?」
「好きな人がいるの? でも、いいや。……山田さんが気になってしかたないです。お試しでもいいから、俺と付き合ってもらえませんか」
彼は湯室で何を言ってるのかと、何度も理子は目蓋を瞬かせた。
冗談にしては、安達さんは真顔で真剣な目をしていた。
熱ぽい目で見詰められて、逆に理子の頭は冷静になっていく。
きっと、何も無ければ雰囲気イケメンな安達さんに冗談でも告白されて、嬉しくて有頂天の気分になっただろう。
しかし、全く嬉しくは無かった。
異世界に居る旦那様の方がずっと、誰よりも素敵で格好良くて自分を愛してくれているのだから。
それに、浮気するつもりがなくとも仕事以外で他の男性と親しくしたら……恐ろしい。
魔王シルヴァリスは、理子を異世界へ連れ去り監禁して凌辱まがいの行為を悦んで行う。下手したら一生鎖で繋がれるかもしれない。
独占欲の塊の様な魔王に、他の男からアプローチされたと知られたら危険だ。
(駄目駄目駄目! 今すぐきっぱり断らなきゃ怖い! 魔法でやり取りを聞いているかもしれないし)
内心、血の気が引いた理子は安達さんに向かって頭を下げた。
「ごめんなさい。付き合うのは無理です」
断る理由が思い付かず、理子は直球でお断りをする。
「そっか。いきなり告白したら、そうだよね。いきなりじゃ困らせるかと思ったけど、誰かに先を越される前に、言っておきたくて」
苦笑いを浮かべて、安達さんは頭を掻く。
「ごめんね、変なこと言って。山田さんの気が変わったら、いつでも連絡してきて」
安達さんは、理子の手のひらへ押し付けるように携帯電話の番号が書かれたメモを渡した。
給湯室から出て行く安達さんの後ろ姿を見送ると、理子は急に疲れてきて、はーと息をついた。
午前中だけでこの疲労感。
急に声をかけられる事が増えたとは、モテ期にでも突入したのかもしれない。
こんな調子で、あと半日を乗り切れるだろうか。
自意識過剰だと思いつつ、誰かの視線を感じる度に不安になってしまった。