くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
昼休憩後、抱いた妙な胸騒ぎを払拭することは出来ず、なるべく同僚と会話や接触をせずに理子は脇目を振らず仕事に意識を集中させた。
終業時刻まであと15分になり、出来上がった書類をまとめてノートパソコンの電源をオフにする。
デスク周りを片付けた理子は、デスクチェアに座ったまま大きく伸びをした。
ガリッ
「いたっ」
右手小指に鈍い痛いが走り、理子は小さく呻いた。
伸びをした際、隣の机の上にあるセロハンテープカッターのギザギザになったカッター部分で、小指を引っ掻けてしまったのだ。
ジワジワと引っ掻けた傷から血がにじみ出てきて、地味に痛い。
「あちゃー」
ティッシュで滲む血を拭き取り、机の引き出しから絆創膏を取り出す。
絆創膏を貼ろうと、小指の傷に視線を移して……理子は大きく目を見開いた。
「あれ? 傷が?」
引っ掻けた傷が消えていたのだ。
まるで、最初から傷など無かったように。ピリピリした痛みも、無くなっていた。
「何これ」
傷口から滲み出た血を拭き取ったティッシュは机上にあり、痛みを感じたのだから怪我はしていた。
それが、一瞬目を離した間に治っているとはどういう事なのか。
小指を凝視したまま、暫くの間理子は固まっていた。
***
最寄り駅の併設ビルで夕食を済まして帰宅した理子は、パンプスを脱いでバックを玄関の床に置いた。
その瞬間、足元に魔王のもとへ向かう魔法陣が展開される。
落下する理子の体を受け止めたのは、ベッドでは無く魔王シルヴァリスの腕だった。
「臭うな」
理子を抱き止めたシルヴァリスは顔を歪める。
床へ顔面ダイブを覚悟した理子は、抱き止めてもらえて少しときめいて彼の顔を見上げたのに、開口一番に傷付くことを言われ口元をひきつらせた。
「それは、帰ってきたばかりで汗だくですから」
ほぼ満員の電車に乗って来たしシャワーも浴びていない。汗臭くて当然だ。だいたい帰宅したばかりのタイミングで喚ぶのが間違ってる。
「お前に懸想している男の欲が纏わり付いている」
抱き止めていた理子の体を下ろすと、シルヴァリスは眉間に皺を寄せた。
「それって、どういう」
コンコン
私の言葉を遮って部屋へやって来たのは、エルザとルーアンの二人だった。
二人の侍女を呼んだということは……理子は溜息を吐いた。
「湯浴みを」
「「畏まりました」」
シルヴァリスは二人に短く命じ、理子はエルザとルーアンの手によって汗臭さなど気にならないくらい、ピカピカに磨きあげられるのだった。
入浴後、汗でベタつく肌も気分もさっぱりした理子は、シルヴァリスによって濡れた髪を乾かされた。
髪から香る仄かな柑橘の香りに、今日一日で気疲れした気持ちが爽やかなものへと変わっていく。
「今日、朝から変なの。やたらと人から声をかけられるし変な感じがするの」
湯浴みをしてさっぱりした理子をシルヴァリスは膝の上へ乗せて、乾かしたばかりの黒髪を指先に絡ませて弄る。
「俺の魔力が流れ込んだ影響だろう。魔力の弱い者、意思の弱い者は側に寄るだけで影響を受ける。だが、他の男が近付こうとするのは気に食わぬな」
背中から首筋に顔を埋めて話すシルヴァリスの唇が、首に触れるのが擽ったくて少しでも逃れようと理子は身を捩る。
「あ、あと、怪我した傷が直ぐに治ったの。まさかそれも?」
「ああ」
首筋から顔を上げたシルヴァリスは、理子の左手を取って手のひらを人差し指でなぞった。
ピリッとした鋭い痛みと共に、手のひらが真横に切れる。
「いっ!」
一文字に切れた傷から、トロリと赤い鮮血が流れた。
いきなり手のひらを切られたショックと痛みで、理子は半泣きになって振り向く。
「ちょっと、何するのっ!? つぅっ」
抗議の声を無視して、シルヴァリスは血が滴る手のひらの傷口に舌を這わせる。
傷口を広げるように這う舌が、手のひらに流れた鮮血を全て舐め取り、理子は戦慄した。
「消えてる……」
ざっくり一文字に切られた傷口は浅くはなかったはず。
その傷がたった数秒で跡形も無く消えるだなんて。いつの間にか、回復魔法を使われたのだろうか。
「魔王の、俺の魔力を体へ受け入れた事で、リコの体は新たに作り替えられたのだ。お前は人であって人ではない。俺に近しい存在となった」
呆然と手のひらを見詰める理子に、シルヴァリスが淡々と衝撃的な事実を告げる。
「何、それ……」
人であって人でない存在。何なのだその中途半端なものは。つまり、魔王のせいで人外の存在になってしまった、ということか。
首を動かした理子は、首筋に口付けてくるシルヴァリスを見詰めた。
終業時刻まであと15分になり、出来上がった書類をまとめてノートパソコンの電源をオフにする。
デスク周りを片付けた理子は、デスクチェアに座ったまま大きく伸びをした。
ガリッ
「いたっ」
右手小指に鈍い痛いが走り、理子は小さく呻いた。
伸びをした際、隣の机の上にあるセロハンテープカッターのギザギザになったカッター部分で、小指を引っ掻けてしまったのだ。
ジワジワと引っ掻けた傷から血がにじみ出てきて、地味に痛い。
「あちゃー」
ティッシュで滲む血を拭き取り、机の引き出しから絆創膏を取り出す。
絆創膏を貼ろうと、小指の傷に視線を移して……理子は大きく目を見開いた。
「あれ? 傷が?」
引っ掻けた傷が消えていたのだ。
まるで、最初から傷など無かったように。ピリピリした痛みも、無くなっていた。
「何これ」
傷口から滲み出た血を拭き取ったティッシュは机上にあり、痛みを感じたのだから怪我はしていた。
それが、一瞬目を離した間に治っているとはどういう事なのか。
小指を凝視したまま、暫くの間理子は固まっていた。
***
最寄り駅の併設ビルで夕食を済まして帰宅した理子は、パンプスを脱いでバックを玄関の床に置いた。
その瞬間、足元に魔王のもとへ向かう魔法陣が展開される。
落下する理子の体を受け止めたのは、ベッドでは無く魔王シルヴァリスの腕だった。
「臭うな」
理子を抱き止めたシルヴァリスは顔を歪める。
床へ顔面ダイブを覚悟した理子は、抱き止めてもらえて少しときめいて彼の顔を見上げたのに、開口一番に傷付くことを言われ口元をひきつらせた。
「それは、帰ってきたばかりで汗だくですから」
ほぼ満員の電車に乗って来たしシャワーも浴びていない。汗臭くて当然だ。だいたい帰宅したばかりのタイミングで喚ぶのが間違ってる。
「お前に懸想している男の欲が纏わり付いている」
抱き止めていた理子の体を下ろすと、シルヴァリスは眉間に皺を寄せた。
「それって、どういう」
コンコン
私の言葉を遮って部屋へやって来たのは、エルザとルーアンの二人だった。
二人の侍女を呼んだということは……理子は溜息を吐いた。
「湯浴みを」
「「畏まりました」」
シルヴァリスは二人に短く命じ、理子はエルザとルーアンの手によって汗臭さなど気にならないくらい、ピカピカに磨きあげられるのだった。
入浴後、汗でベタつく肌も気分もさっぱりした理子は、シルヴァリスによって濡れた髪を乾かされた。
髪から香る仄かな柑橘の香りに、今日一日で気疲れした気持ちが爽やかなものへと変わっていく。
「今日、朝から変なの。やたらと人から声をかけられるし変な感じがするの」
湯浴みをしてさっぱりした理子をシルヴァリスは膝の上へ乗せて、乾かしたばかりの黒髪を指先に絡ませて弄る。
「俺の魔力が流れ込んだ影響だろう。魔力の弱い者、意思の弱い者は側に寄るだけで影響を受ける。だが、他の男が近付こうとするのは気に食わぬな」
背中から首筋に顔を埋めて話すシルヴァリスの唇が、首に触れるのが擽ったくて少しでも逃れようと理子は身を捩る。
「あ、あと、怪我した傷が直ぐに治ったの。まさかそれも?」
「ああ」
首筋から顔を上げたシルヴァリスは、理子の左手を取って手のひらを人差し指でなぞった。
ピリッとした鋭い痛みと共に、手のひらが真横に切れる。
「いっ!」
一文字に切れた傷から、トロリと赤い鮮血が流れた。
いきなり手のひらを切られたショックと痛みで、理子は半泣きになって振り向く。
「ちょっと、何するのっ!? つぅっ」
抗議の声を無視して、シルヴァリスは血が滴る手のひらの傷口に舌を這わせる。
傷口を広げるように這う舌が、手のひらに流れた鮮血を全て舐め取り、理子は戦慄した。
「消えてる……」
ざっくり一文字に切られた傷口は浅くはなかったはず。
その傷がたった数秒で跡形も無く消えるだなんて。いつの間にか、回復魔法を使われたのだろうか。
「魔王の、俺の魔力を体へ受け入れた事で、リコの体は新たに作り替えられたのだ。お前は人であって人ではない。俺に近しい存在となった」
呆然と手のひらを見詰める理子に、シルヴァリスが淡々と衝撃的な事実を告げる。
「何、それ……」
人であって人でない存在。何なのだその中途半端なものは。つまり、魔王のせいで人外の存在になってしまった、ということか。
首を動かした理子は、首筋に口付けてくるシルヴァリスを見詰めた。