くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
翌日、上司に時間をとってもらい理子は結婚の報告と退職の旨を伝えた。
急な退職願いになってしまった理由は「結婚相手の海外赴任が決まったため」とし、上司と同僚達に頭を下げる。
「急だし、全くそんな素振り無かったから吃驚したけど」
入社当時から何かと気にかけてくれ、田島係長から苛めを受けていた時も庇ってくれていた上司は、困惑の表情を浮かべて白髪が目立つ頭をポリポリ掻いた。
「見守っていた娘を送り出すような気分だ。理子ちゃん、おめでとう」
初めて「おめでとう」と言われた事に気付いて、理子の頬は嬉しさとほんの少しの恥ずかしさで熱を持つ。
パチパチパチッ
部署中の同僚達から一斉に「おめでとう」と拍手をされて、理子の視界が歪んでいく。
「理子ちゃんは頑張ったからねー良かった」
何かと世話を焼いてくれていた女性の同僚も目を潤ませる。
山本さんも複雑そうな表情を浮かべつつも、拍手をしてくれているのを見てついに理子の涙腺は崩壊した。
終業時刻となり、理子は渡された書類入りの封筒をバックへしまうと身支度をする。
退職の決意を固めて周りの同僚に伝えたせいだろうか。
職場の空気が何時もと違う感じがして、あと少しでこの場所から去るのかと寂しくなった。
帰宅途中の電車を待っている間、これからの手続きについて手帳を開いてチェックしていた。
これからやるべき事を書き出して、優先順位を決めていく。
「大家さんに連絡するのは明日にして、あとは……」
重要な事を思い出した理子は、さらさらと動かしていたボールペンの先で手帳をつつく。
「実家、忘れてた」
退職の事も結婚の事も、実家の家族へ伝えるのを忘れていたのだ。
はぁーと息を吐いて、理子はバックからスマートフォンを取り出す。
今の時間なら母親は家に居るだろう。
久しくかけていなかった実家の電話をディスプレイに表示させ、理子は通話ボタンを押した。
『はい、山田です。亜子ちゃん? あらやだ、理子か。どうしたの?』
数コールで出た母親は、電話は姉の亜子ではなく理子だと気付いて、あからさまに声のトーンを下げた。
「お盆休み帰らなかったから、週末に帰ろうかと思ったの。お母さんとお父さんに話したいことがあってね」
『えー、土日は亜子ちゃんと温泉に行くのよ。結婚前の亜子ちゃんと二人で行く予定なのに困ったわ~。来週末も亜子ちゃんと買い物だし、電話じゃ話せないの?』
最愛の姉との予定を邪魔されると、母親は心底困っているのだろう。
遠回しに帰ってくるなと言われているようで、理子は苦笑いしてしまった。
ピーナッツ母子と言うのか、母親とベッタリな姉の仲良しっぷりは昔からだから、今さら苛つく事も何も無い。
『帰ってくるならもっと早く言ってくれればいいのにぃ~』
「お父さんはいるの?」
『ええ』
やはり、父親は家に置いてきぼりか。毎回お留守番とはさすがに可哀想だ。
「お父さんと話すから週末に帰るね。お母さんと亜子お姉ちゃんは気にしないで旅行楽しんで来てね」
理子の事は眼中に無い母親に退職と結婚の相談をしても無駄だろう。
報告は父親にして、父親から母親と姉へ伝えてもらえばいいと判断した。
『ごめんなさいね~じゃあね』
ガチャッと電話を切られてしまい、理子は父親宛のメッセージを打ち始める。すぐ母親は理子からの電話があったことは忘れてしまい、父親には伝わらないだろうから。
「お父さん、吃驚するかな」
それとも、事前に相談もしないで退職と結婚を決めてしまったから、怒るかもしれない。
せめて、父親には祝福されたい。
結婚相手の職業が魔王とは言えないけれど、シルヴァリスのことを話しておきたかった。
メッセージを送信してから、携帯電話を操作して写真フォルダーに入っている渾身の一枚を表示させる。
「お母さんと亜子お姉ちゃんが居なくて良かったかもね」
表示させたのは、昨夜シルヴァリスと一緒に撮った写真。
結婚報告と共に写真を見せたら、姉が会わせろとうるさく言って来るだろう。香織に見たいからとせがまれて撮ってきた写真だったが、今日は一緒に昼休憩を取れなかったため見せられなかった。
(ふふっ、待ち受けにしようかな)
写真に映る銀髪赤目の麗しき魔王の姿に、理子はニヤニヤと口元をゆるめた。
急な退職願いになってしまった理由は「結婚相手の海外赴任が決まったため」とし、上司と同僚達に頭を下げる。
「急だし、全くそんな素振り無かったから吃驚したけど」
入社当時から何かと気にかけてくれ、田島係長から苛めを受けていた時も庇ってくれていた上司は、困惑の表情を浮かべて白髪が目立つ頭をポリポリ掻いた。
「見守っていた娘を送り出すような気分だ。理子ちゃん、おめでとう」
初めて「おめでとう」と言われた事に気付いて、理子の頬は嬉しさとほんの少しの恥ずかしさで熱を持つ。
パチパチパチッ
部署中の同僚達から一斉に「おめでとう」と拍手をされて、理子の視界が歪んでいく。
「理子ちゃんは頑張ったからねー良かった」
何かと世話を焼いてくれていた女性の同僚も目を潤ませる。
山本さんも複雑そうな表情を浮かべつつも、拍手をしてくれているのを見てついに理子の涙腺は崩壊した。
終業時刻となり、理子は渡された書類入りの封筒をバックへしまうと身支度をする。
退職の決意を固めて周りの同僚に伝えたせいだろうか。
職場の空気が何時もと違う感じがして、あと少しでこの場所から去るのかと寂しくなった。
帰宅途中の電車を待っている間、これからの手続きについて手帳を開いてチェックしていた。
これからやるべき事を書き出して、優先順位を決めていく。
「大家さんに連絡するのは明日にして、あとは……」
重要な事を思い出した理子は、さらさらと動かしていたボールペンの先で手帳をつつく。
「実家、忘れてた」
退職の事も結婚の事も、実家の家族へ伝えるのを忘れていたのだ。
はぁーと息を吐いて、理子はバックからスマートフォンを取り出す。
今の時間なら母親は家に居るだろう。
久しくかけていなかった実家の電話をディスプレイに表示させ、理子は通話ボタンを押した。
『はい、山田です。亜子ちゃん? あらやだ、理子か。どうしたの?』
数コールで出た母親は、電話は姉の亜子ではなく理子だと気付いて、あからさまに声のトーンを下げた。
「お盆休み帰らなかったから、週末に帰ろうかと思ったの。お母さんとお父さんに話したいことがあってね」
『えー、土日は亜子ちゃんと温泉に行くのよ。結婚前の亜子ちゃんと二人で行く予定なのに困ったわ~。来週末も亜子ちゃんと買い物だし、電話じゃ話せないの?』
最愛の姉との予定を邪魔されると、母親は心底困っているのだろう。
遠回しに帰ってくるなと言われているようで、理子は苦笑いしてしまった。
ピーナッツ母子と言うのか、母親とベッタリな姉の仲良しっぷりは昔からだから、今さら苛つく事も何も無い。
『帰ってくるならもっと早く言ってくれればいいのにぃ~』
「お父さんはいるの?」
『ええ』
やはり、父親は家に置いてきぼりか。毎回お留守番とはさすがに可哀想だ。
「お父さんと話すから週末に帰るね。お母さんと亜子お姉ちゃんは気にしないで旅行楽しんで来てね」
理子の事は眼中に無い母親に退職と結婚の相談をしても無駄だろう。
報告は父親にして、父親から母親と姉へ伝えてもらえばいいと判断した。
『ごめんなさいね~じゃあね』
ガチャッと電話を切られてしまい、理子は父親宛のメッセージを打ち始める。すぐ母親は理子からの電話があったことは忘れてしまい、父親には伝わらないだろうから。
「お父さん、吃驚するかな」
それとも、事前に相談もしないで退職と結婚を決めてしまったから、怒るかもしれない。
せめて、父親には祝福されたい。
結婚相手の職業が魔王とは言えないけれど、シルヴァリスのことを話しておきたかった。
メッセージを送信してから、携帯電話を操作して写真フォルダーに入っている渾身の一枚を表示させる。
「お母さんと亜子お姉ちゃんが居なくて良かったかもね」
表示させたのは、昨夜シルヴァリスと一緒に撮った写真。
結婚報告と共に写真を見せたら、姉が会わせろとうるさく言って来るだろう。香織に見たいからとせがまれて撮ってきた写真だったが、今日は一緒に昼休憩を取れなかったため見せられなかった。
(ふふっ、待ち受けにしようかな)
写真に映る銀髪赤目の麗しき魔王の姿に、理子はニヤニヤと口元をゆるめた。