くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
強制睡眠により眠らせた理子を、シルヴァリスはベッドへと横たえる。
清めた髪を一撫でして、額に口づけを落とした。
眠る理子に背を向けたシルヴァリスは、やわらかい表情を瞬時に消して無慈悲な魔王へとその身を一変させる。
執務室へと転移をした魔王は、近くに控えているだろう者へ声をかけた。
「キルビス」
ざわり、空気が揺れて青銅色の髪の腹心の部下が姿を現した。
「はいはい、此処にいますよ。お嬢さんはもう寝かしつけたんですか?」
ニヤニヤした嫌味ったらしい笑みは無視して、魔王はキルビスが持つ報告書の束に視線を移した。
「アレはどうなっている」
「概ね順調のようです。ただ、魔王様が怒りで冷静さを失って、暴走しないでいてくれたら、の話ですがね」
「はい、どうぞ」と渡された報告書を受け取り、魔王は一通り目を通し内容を頭の中へと入れた。
「フンッつまらぬ。順調で無ければ、今から全てを焼き払ってやろうかと思ったのにな」
「憂さ晴らしが出来なくて残念ですね。全く、今の貴方は躊躇無く世界をも滅ぼしてしまいそうだ」
わざとらしい溜め息を吐いたキルビスは、両手を顔の横へ持って来て手のひらを見せて降参のポーズをとる。
「世界を滅ぼすなどと下らぬ。だが、俺のモノに手を出そうとした愚か者には……その身が滅びた方がマシだと思う程の苦しみを与えねばな」
クツクツ冷酷な顔で笑う魔王を見て、キルビスは苦笑いを浮かべた。
操られていたとはいえ、寵姫に触れて泣かしただけの異世界の者を、間接的にとはいえ手を下して葬るとは。
畏れ多い魔王だ。
異世界へ赴いての後処理は少々面倒だったが、寵姫を手に入れてから変化した魔王は、残虐性が無くなった訳でも無いようだ。
魔王の全てが変わった訳ではなかったと安堵している自分がいて、キルビスは自身を嘲る。
「……怒りに任せて即、焼き払いに行かないとは、無慈悲な魔王様も随分と丸くなったな」
以前の魔王だったら、気に入らない相手に対しては策を巡らせずに焼き払うか引き裂いていた筈だ。
猶予を与えるとは、変わるものだ。
「黙れ。引き継ぎ監視と、頃合いを見て誘導をしろ。手段は貴様に任せる」
ボウッ
もう用はないとばかりに、魔王の手の中で、報告書の束が燃え上がる。
「仰せのままに」
報告書が灰になって消滅したのを確認して、キルビスは恭しく頭を下げた。
不安定になった魔力を安定させるため、魔国の城に滞在するようにシルヴァリスから命じられた翌朝。
目覚めた理子を待っていたのは、嬉しそうに朝の支度を手伝いに来たエルザとルーアンの二人だった。
驚くことに、自宅に置いてある筈の服や化粧品等は魔国の王妃の部屋に一通り揃えてあった。
エルザがクローゼットの扉を開けた時は「はぁ?」と間抜けな声を出してしまった。
王妃の部屋のクローゼットは、自宅のクローゼットの中と同じ状態で積み重ねた衣装ケースもそのまま入っていたのだ。
これは、シルヴァリスが移動させたのだろうか。
二人の侍女に、どうしたのか尋ねてみて理子は頭を抱えた。
「魔王様の命で、キルビス様が転移されましたよ」
「キルビスさんが?」
宰相様にご迷惑をかけてしまった上に、下着まで運ばせてしまうなんて申し訳ないという気持ちと、半透明の衣装ケースの中ははっきりと見えないとはいえ、下着を見られたかもしれないという不安で落ち着かない気持ちになる。
(次に会ったときは、ちゃんとお礼を言わなきゃ)
そう思っていても、理子が気にするほど彼女の心の揺れは魔王へ伝わり、しばらくの間、宰相キルビスとは顔を合わせることは無かった。
清めた髪を一撫でして、額に口づけを落とした。
眠る理子に背を向けたシルヴァリスは、やわらかい表情を瞬時に消して無慈悲な魔王へとその身を一変させる。
執務室へと転移をした魔王は、近くに控えているだろう者へ声をかけた。
「キルビス」
ざわり、空気が揺れて青銅色の髪の腹心の部下が姿を現した。
「はいはい、此処にいますよ。お嬢さんはもう寝かしつけたんですか?」
ニヤニヤした嫌味ったらしい笑みは無視して、魔王はキルビスが持つ報告書の束に視線を移した。
「アレはどうなっている」
「概ね順調のようです。ただ、魔王様が怒りで冷静さを失って、暴走しないでいてくれたら、の話ですがね」
「はい、どうぞ」と渡された報告書を受け取り、魔王は一通り目を通し内容を頭の中へと入れた。
「フンッつまらぬ。順調で無ければ、今から全てを焼き払ってやろうかと思ったのにな」
「憂さ晴らしが出来なくて残念ですね。全く、今の貴方は躊躇無く世界をも滅ぼしてしまいそうだ」
わざとらしい溜め息を吐いたキルビスは、両手を顔の横へ持って来て手のひらを見せて降参のポーズをとる。
「世界を滅ぼすなどと下らぬ。だが、俺のモノに手を出そうとした愚か者には……その身が滅びた方がマシだと思う程の苦しみを与えねばな」
クツクツ冷酷な顔で笑う魔王を見て、キルビスは苦笑いを浮かべた。
操られていたとはいえ、寵姫に触れて泣かしただけの異世界の者を、間接的にとはいえ手を下して葬るとは。
畏れ多い魔王だ。
異世界へ赴いての後処理は少々面倒だったが、寵姫を手に入れてから変化した魔王は、残虐性が無くなった訳でも無いようだ。
魔王の全てが変わった訳ではなかったと安堵している自分がいて、キルビスは自身を嘲る。
「……怒りに任せて即、焼き払いに行かないとは、無慈悲な魔王様も随分と丸くなったな」
以前の魔王だったら、気に入らない相手に対しては策を巡らせずに焼き払うか引き裂いていた筈だ。
猶予を与えるとは、変わるものだ。
「黙れ。引き継ぎ監視と、頃合いを見て誘導をしろ。手段は貴様に任せる」
ボウッ
もう用はないとばかりに、魔王の手の中で、報告書の束が燃え上がる。
「仰せのままに」
報告書が灰になって消滅したのを確認して、キルビスは恭しく頭を下げた。
不安定になった魔力を安定させるため、魔国の城に滞在するようにシルヴァリスから命じられた翌朝。
目覚めた理子を待っていたのは、嬉しそうに朝の支度を手伝いに来たエルザとルーアンの二人だった。
驚くことに、自宅に置いてある筈の服や化粧品等は魔国の王妃の部屋に一通り揃えてあった。
エルザがクローゼットの扉を開けた時は「はぁ?」と間抜けな声を出してしまった。
王妃の部屋のクローゼットは、自宅のクローゼットの中と同じ状態で積み重ねた衣装ケースもそのまま入っていたのだ。
これは、シルヴァリスが移動させたのだろうか。
二人の侍女に、どうしたのか尋ねてみて理子は頭を抱えた。
「魔王様の命で、キルビス様が転移されましたよ」
「キルビスさんが?」
宰相様にご迷惑をかけてしまった上に、下着まで運ばせてしまうなんて申し訳ないという気持ちと、半透明の衣装ケースの中ははっきりと見えないとはいえ、下着を見られたかもしれないという不安で落ち着かない気持ちになる。
(次に会ったときは、ちゃんとお礼を言わなきゃ)
そう思っていても、理子が気にするほど彼女の心の揺れは魔王へ伝わり、しばらくの間、宰相キルビスとは顔を合わせることは無かった。