くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
手の甲に口付ける、というキザったらしい別れの挨拶をしてきたカルサエルの後ろ姿を、理子は呆然と見送った。
見目麗しい男性に頭を下げられて微笑まれたら、大概の女性はときめくだろうが、理子は妙な違和感を覚えた。
彼の視線に含まれていたものは、理子が彼にとって有益であるかどうかを探ぐっているようだった。
手の甲への口付けは「合格」だと捉えていいのか。
「マクリーンさん、今の方は……」
理子と同じ様に、前方を見詰めていたマクリーンの表情は固いままだった。
「ダルマン侯爵は、力のある魔貴族家の御当主様でございます。ですが、あまりお心を許さぬようにしてくださいませ。魔貴族達の中は、腹心以外は近寄らせない魔王様に取り入ろうと考えて、リコ様に御近付きになろうという方もいるのです」
確かに、取り入りたいけれど近寄りがたい魔王が急に現れた妃候補を傍に置いたら、まだガードが緩そうな妃候補に近付こうとするかも知れない。
先程のカルサエルの鋭い視線を思い出して、背筋が寒くなった。
夕食を済ませた理子は、部屋へと戻り漸く訪れた休憩時間をまったりと過ごしていた。
ルーアンが淹れてくれる紅茶が身に染み入る。
慌ただしい一日だった。
彼方の世界で夕方まで仕事して、此方へ戻って来たらまだ昼間とか、時間軸はどうなっているんだろうか。仕事後に王妃教育を受けるのは、気力体力的にしんどい。
退職まで毎日この生活を続けたら、さすがに倒れるかもしれない。
ソファーに座ってボケッとしている理子のもとへ、嬉しそうなエルザがやって来る。
「リコ様。魔王様がいらっしゃいました」
「魔王様が?」
一日ぶりなのに顔を合わせるのは久しぶりな気がして、理子の頬はだらしなく緩む。
周囲には、冷酷で無慈悲な魔王だと畏れられているシルヴァリスに逢えるのが嬉しいとは末期だな、と思う。
「シルヴァリス様」
満面の笑みで出迎えた理子に、シルヴァリスはフッとやわらかく微笑み、直ぐに眉間に皺を寄せた。
「リコ」
眉間に皺を寄せたまま伸ばされたシルヴァリスの手が、理子の手首を掴んで引き寄せ……
バチッ!
「きゃあ!」
青い静電気の様な光が弾け、理子は悲鳴を上げた。
「静電気?」
派手な音を発したのに、痛みが無いのが不思議で理子は首を傾げた。
「随分、舐めた真似を……」
理子の手首を掴み、手の甲を凝視していたシルヴァリスが低い声で呟く。
ビシッ!
赤い瞳に剣呑な光が宿り、何かが軋む音が室内に響く。
「今のは? もしかして、私、何かされてたんですか?」
カルサエルに口付けされた時、魔法でもかけられたのか。全く気付かなかった自分は「鈍い」のかもしれない。
眉尻を下げる理子に、シルヴァリスからはクツクツと笑いが漏れた。
「お前からは目を離せられぬな」
掴んでいた手首を放して、解放された理子の手のひらとシルヴァリスの手のひらが重なる。
そのまま自分の方へ二度引き寄せると、カルサエルに口付けられた痕跡を消すように、彼は手の甲へと口付けを落とした。
見目麗しい男性に頭を下げられて微笑まれたら、大概の女性はときめくだろうが、理子は妙な違和感を覚えた。
彼の視線に含まれていたものは、理子が彼にとって有益であるかどうかを探ぐっているようだった。
手の甲への口付けは「合格」だと捉えていいのか。
「マクリーンさん、今の方は……」
理子と同じ様に、前方を見詰めていたマクリーンの表情は固いままだった。
「ダルマン侯爵は、力のある魔貴族家の御当主様でございます。ですが、あまりお心を許さぬようにしてくださいませ。魔貴族達の中は、腹心以外は近寄らせない魔王様に取り入ろうと考えて、リコ様に御近付きになろうという方もいるのです」
確かに、取り入りたいけれど近寄りがたい魔王が急に現れた妃候補を傍に置いたら、まだガードが緩そうな妃候補に近付こうとするかも知れない。
先程のカルサエルの鋭い視線を思い出して、背筋が寒くなった。
夕食を済ませた理子は、部屋へと戻り漸く訪れた休憩時間をまったりと過ごしていた。
ルーアンが淹れてくれる紅茶が身に染み入る。
慌ただしい一日だった。
彼方の世界で夕方まで仕事して、此方へ戻って来たらまだ昼間とか、時間軸はどうなっているんだろうか。仕事後に王妃教育を受けるのは、気力体力的にしんどい。
退職まで毎日この生活を続けたら、さすがに倒れるかもしれない。
ソファーに座ってボケッとしている理子のもとへ、嬉しそうなエルザがやって来る。
「リコ様。魔王様がいらっしゃいました」
「魔王様が?」
一日ぶりなのに顔を合わせるのは久しぶりな気がして、理子の頬はだらしなく緩む。
周囲には、冷酷で無慈悲な魔王だと畏れられているシルヴァリスに逢えるのが嬉しいとは末期だな、と思う。
「シルヴァリス様」
満面の笑みで出迎えた理子に、シルヴァリスはフッとやわらかく微笑み、直ぐに眉間に皺を寄せた。
「リコ」
眉間に皺を寄せたまま伸ばされたシルヴァリスの手が、理子の手首を掴んで引き寄せ……
バチッ!
「きゃあ!」
青い静電気の様な光が弾け、理子は悲鳴を上げた。
「静電気?」
派手な音を発したのに、痛みが無いのが不思議で理子は首を傾げた。
「随分、舐めた真似を……」
理子の手首を掴み、手の甲を凝視していたシルヴァリスが低い声で呟く。
ビシッ!
赤い瞳に剣呑な光が宿り、何かが軋む音が室内に響く。
「今のは? もしかして、私、何かされてたんですか?」
カルサエルに口付けされた時、魔法でもかけられたのか。全く気付かなかった自分は「鈍い」のかもしれない。
眉尻を下げる理子に、シルヴァリスからはクツクツと笑いが漏れた。
「お前からは目を離せられぬな」
掴んでいた手首を放して、解放された理子の手のひらとシルヴァリスの手のひらが重なる。
そのまま自分の方へ二度引き寄せると、カルサエルに口付けられた痕跡を消すように、彼は手の甲へと口付けを落とした。