くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
中二病だと思い込んでいた以前の鈴木君だったら「なにその設定」と鼻で笑っていた。
しかし、別人だと分かった今は笑えない。
「魔国? 魔国って……国の名前? ……魔王、様? ええぇ~⁉」
本物の魔王、なら不遜で古めかしい言い回しも、数多の女性を魅了して縋りつかれるのは理解できる。
ファンタジーな物語では、魔王様とは魔物やら魔族の王様で人類の敵。お貴族様や王様、王子様ならときめいた。それが、まさかの魔王様とは。
ときめきよりも、背中に寒気が走った。
彼の思考は、中二病か頭が沸いているわけじゃなかったのが分かった。
でも、何故、壁に出来た穴が魔王様の部屋と繋がったのだ。
百歩譲って繋がったのが、何故、人外で一番ヤバそうな相手だったと頭を抱えた。
「女、貴様は何者だ?」
「私……私は、山田理子。日本在住の一般人です」
ファンタジーの設定では、魔物に本名を名乗るのは危険かもと一瞬だけ考えた。
しかし、拒否するのも恐いし、危害を加えられるのならとっくに殺されているだろう。
それならば、と理子は素直に名乗る事にした。
「ヤマダ? ニホン?」
「ああ、理子が名前で……リコ・ヤマダの方がいいのかな」
自分の名前の外国風呼びには違和感を覚えて、背中がむず痒い。
「リコ」
いきなり魔王様から名前を呼ばれ、理子は驚きのあまり目を見開いてじっと壁を見詰めた。
耳に心地よく響く低音の声で“女”でも無く“貴様”でも無く、名前を呼ばれた理子は大きく目を見開いた。
声だけで人を虜にするだろう魔王様に、不意打ちで名前を呼ばれた理子の心臓は大きく跳ね、甘い疼きが生まれる。
「は、はい、何でしょうか」
「口調を戻せ。今更畏まれてもつまらんだけだ」
「う、不敬だって怒らない?」
「くくくっ、それこそ今更ではないか」
至極愉しそうに魔王様は笑った。
例え、角や羽根、尻尾が生えた真っ黒のおどろおどろしい悪魔のような姿でも、壁の向こう側に存在するだろう魔王様のお姿を拝見してみたい、と命知らずにも思ってしまった。
鈴木君だと思っていた壁の向こう側の彼は、魔王様でしたなんて……とんでもないことになってしまった。
この日から魔王様と理子の、世界すら違う異文化交流が始まったのだった。
***
クリーム色の靄が立ち込める空間に理子は立っていた。
毎晩の習慣となっている魔王との会話の後、ベッドに入って寝た筈なのにどうして裸足のまま外に居るのか。理子は首を傾げる。
クリーム色の靄がザワザワ揺れて、突き刺すような鋭い視線と気持ちの悪い風が理子を包み込んだ。
『お前のせいで……!』
風のせいで目蓋を閉じた理子の耳に流し込まれたのは、ひび割れた若くも老人とも捉えられる女性の声。
『百年かけて集めた魔力が台無しだ!』
ひび割れた声は怒りをぶつけてくるが、彼女が何故怒っているのか身に覚えはなかった。
『いや……あの方の力を頂ければ……契約出来れば……最高の力を……もしくは、実体に触れられれば……』
ぶつぶつと呟かれる声と気持ちの悪い風は、理子の体の周囲で渦巻き続ける。
女性の言葉の意味は全く理解出来ず、夢なら早く覚めてと理子は両腕で自分の肩を抱いた。
『娘、せいぜい私の役に立っておくれ』
渦を巻く風が突然止む。
閉じていた目蓋を開いた理子の視界には、黒いローブを頭から被った人物が獲物を狙う捕食者のように真っ赤な唇の端を吊り上げるのが見えた、気がした。
しかし、別人だと分かった今は笑えない。
「魔国? 魔国って……国の名前? ……魔王、様? ええぇ~⁉」
本物の魔王、なら不遜で古めかしい言い回しも、数多の女性を魅了して縋りつかれるのは理解できる。
ファンタジーな物語では、魔王様とは魔物やら魔族の王様で人類の敵。お貴族様や王様、王子様ならときめいた。それが、まさかの魔王様とは。
ときめきよりも、背中に寒気が走った。
彼の思考は、中二病か頭が沸いているわけじゃなかったのが分かった。
でも、何故、壁に出来た穴が魔王様の部屋と繋がったのだ。
百歩譲って繋がったのが、何故、人外で一番ヤバそうな相手だったと頭を抱えた。
「女、貴様は何者だ?」
「私……私は、山田理子。日本在住の一般人です」
ファンタジーの設定では、魔物に本名を名乗るのは危険かもと一瞬だけ考えた。
しかし、拒否するのも恐いし、危害を加えられるのならとっくに殺されているだろう。
それならば、と理子は素直に名乗る事にした。
「ヤマダ? ニホン?」
「ああ、理子が名前で……リコ・ヤマダの方がいいのかな」
自分の名前の外国風呼びには違和感を覚えて、背中がむず痒い。
「リコ」
いきなり魔王様から名前を呼ばれ、理子は驚きのあまり目を見開いてじっと壁を見詰めた。
耳に心地よく響く低音の声で“女”でも無く“貴様”でも無く、名前を呼ばれた理子は大きく目を見開いた。
声だけで人を虜にするだろう魔王様に、不意打ちで名前を呼ばれた理子の心臓は大きく跳ね、甘い疼きが生まれる。
「は、はい、何でしょうか」
「口調を戻せ。今更畏まれてもつまらんだけだ」
「う、不敬だって怒らない?」
「くくくっ、それこそ今更ではないか」
至極愉しそうに魔王様は笑った。
例え、角や羽根、尻尾が生えた真っ黒のおどろおどろしい悪魔のような姿でも、壁の向こう側に存在するだろう魔王様のお姿を拝見してみたい、と命知らずにも思ってしまった。
鈴木君だと思っていた壁の向こう側の彼は、魔王様でしたなんて……とんでもないことになってしまった。
この日から魔王様と理子の、世界すら違う異文化交流が始まったのだった。
***
クリーム色の靄が立ち込める空間に理子は立っていた。
毎晩の習慣となっている魔王との会話の後、ベッドに入って寝た筈なのにどうして裸足のまま外に居るのか。理子は首を傾げる。
クリーム色の靄がザワザワ揺れて、突き刺すような鋭い視線と気持ちの悪い風が理子を包み込んだ。
『お前のせいで……!』
風のせいで目蓋を閉じた理子の耳に流し込まれたのは、ひび割れた若くも老人とも捉えられる女性の声。
『百年かけて集めた魔力が台無しだ!』
ひび割れた声は怒りをぶつけてくるが、彼女が何故怒っているのか身に覚えはなかった。
『いや……あの方の力を頂ければ……契約出来れば……最高の力を……もしくは、実体に触れられれば……』
ぶつぶつと呟かれる声と気持ちの悪い風は、理子の体の周囲で渦巻き続ける。
女性の言葉の意味は全く理解出来ず、夢なら早く覚めてと理子は両腕で自分の肩を抱いた。
『娘、せいぜい私の役に立っておくれ』
渦を巻く風が突然止む。
閉じていた目蓋を開いた理子の視界には、黒いローブを頭から被った人物が獲物を狙う捕食者のように真っ赤な唇の端を吊り上げるのが見えた、気がした。