くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
貴賓用の応接室で待っていた金髪縦ロールの令嬢、ベアトリクスは侍女に先導されて部屋へ入った理子に輝く笑顔を向けた。
「お忙しいのに来てしまって、リコ様はご迷惑ではありませんですか?」
仕事を終えて此方へ戻って来た理子が、仕事着からドレスへ着替えるまで応接室でかなりの時間待たせてしまったのだ。
見た目はきつい美少女なのに、彼女は本当に優しくて良いお嬢さんだと理子は感動した。
「いえ、ベアトリクス様に来てもらえて嬉しいです。ありがとうございます」
微笑んだ理子はベアトリクスとテーブルを挟んで向かい合わせに椅子へと座った。
侯爵令嬢との交流という大義名分が出来て、王妃教育の息抜きが出来る。
理子の言いたいことをすぐに理解したベアトリクスはクスクス笑う。
「待望のお妃様に、侍女達が張り切っていると伯父様から聞いておりますわ。侍女長もつい力を入れすぎてしまのでしょう」
マクリーンによるお勉強の、あれが“つい”というレベルなのか。やる気を見せなかったり、間違えると浴びせられる機関銃のような解説と魔王とは違う部類の強烈な圧力を思い出して、理子は苦笑いを浮かべてしまった。
「それとも、ダルマン侯爵がしつこいのですか?」
「えっ」と、大きく目を見開いた。
耳が早いと感心するべきか、ベアトリクスはどこまで知っているのだろう。
連日理子宛に、カルサエル・ダルマン侯爵から贈り物が届いているのだ。
お菓子や珍しい茶葉は嬉しいが、装飾品や花束など高価すぎる分不相応な贈り物はどうしたらいいのか困る。
「しつこいというか、ただ私には勿体ない贈り物ばかりで申し訳無いというか」
添えられたカードに書かれた理子を称賛するメッセージも恥ずかしくなる内容で、初対面の上から見下すような鋭い視線のカルサエルとは違いすぎて困惑してしまう。
一度、花束とカードをシルヴァリスに見付かり、不機嫌な彼の手で握り潰され瞬時に灰と化していたが。
「お困りならはっきり言わないと、あの方は止めてくださらないと思います。リコ様に取り入ればダルマン侯爵家の血筋の令嬢をお妃様の侍女に、上手くいけばお世継ぎ様の側近候補になれる可能性もありますもの。侯爵ご自身は強い魔力をお持ちで見目麗しい方ですから、もしかしたらリコ様の情夫でも狙っているのかも」
「じょっ情夫!?」
衝撃的のベアトリクスの発言に、理子はゴホッと飲んでいた紅茶を吐き出しかけた。
地位固めに取り入りたいのは分かるけれど、情夫、愛人目当てだとは考えつかなかった。
高貴な女性とか悪役女王様だったら、気位が高くて冷たい美貌の男性を侍すという状況は鳥肌ものなのだろうな、とは思う。
「ダルマン侯爵家は、魔貴族の中でも古参で他家に強い影響力を持っているため、魔王様も抹消したくとも迂闊には手を出せません。でも、魔王様が本気でお怒りになられたら一族郎党全て消してしまうでしょう。侯爵も節度は守ってくださるはずです」
他家との繋がりがあるため、花束とメッセージカードを見たシルヴァリスが苦々しい表情をしていたのか。
魔王不在のタイミングで届く贈り物は、まるでカルサエルからの嫌がらせみたいだ。
シルヴァリスの顔を思い浮かべて、理子の胸がぎゅうっと締め付けられるように痛くなる。
「あの……ベアトリクス様、今、魔王様はお忙しいのかな?」
仕事と王妃教育の疲れから、ベッドに横になると即寝入ってしまっているため、ここ二日間シルヴァリスとは顔を合わしていなかった。
口を開く前にベアトリクスは、壁際に控えていた侍女達へ視線を送り下がらせる。
「キルビス伯父様によると、大陸の人族の国々の情勢が緊迫していて、中でも大国のアネイルは他国との戦に備えて勇者を召喚したとか。アネイル国王と第二王子が魔国へ喧嘩を吹っ掛けているみたいですし、魔王様は諸外国とアネイル国の調整をされているのだと思います。魔国はどこの国とも中立を保っていますから」
「私、全然知らなかった」
ここ数日、シルヴァリスは理子が目覚める前に出ていって深夜に戻ってきていた。戦争回避のため、動いていたなど知らなかった。魔法や魔王があるこの世界には勇者様も存在しているのか。
そこまで考えて、理子は嫌な予感に襲われた。
物語の勇者は、世界の平和をかけて魔王を倒すために召喚されているのではなかったか。
黙ってしまった理子を気遣ってか、ベアトリクスは安心させるように可愛らしく微笑んだ。
「わたくしは伯父様から愚痴混じりに聞いているから知っているだけで、リコ様が御存じ無いのは仕方がない事ですよ?」
丸型テーブルに身を乗り出して腕を伸ばすものだから、気遣ってくれるベアトリクスには悪いが、理子の目線は彼女の豊かな胸がテーブルの乗っかっているのに釘付けになってしまった。
「リコ様?」
不埒な理子の目線に気付いたベアトリクスは、きょとんと首を傾げる。
慌てた理子は「ううん?」と笑って何とか誤魔化した。
魔王様のお仕事が忙しいのに、シルヴァリスが理子の事まで気を配ってくれるのは嬉しい反面、大丈夫かと心配になる。
まだ新婚生活が始まってもいないのに、旦那様が過労で疲れ果てるのは嫌だ。せめて、妻として旦那様が家庭に帰ったら安らげるよう迎えてあげなければ。
「労ってあげなきゃ」
誰を、とは言わなかったのにベアトリクスは頬を赤く染めた。
「お忙しいのに来てしまって、リコ様はご迷惑ではありませんですか?」
仕事を終えて此方へ戻って来た理子が、仕事着からドレスへ着替えるまで応接室でかなりの時間待たせてしまったのだ。
見た目はきつい美少女なのに、彼女は本当に優しくて良いお嬢さんだと理子は感動した。
「いえ、ベアトリクス様に来てもらえて嬉しいです。ありがとうございます」
微笑んだ理子はベアトリクスとテーブルを挟んで向かい合わせに椅子へと座った。
侯爵令嬢との交流という大義名分が出来て、王妃教育の息抜きが出来る。
理子の言いたいことをすぐに理解したベアトリクスはクスクス笑う。
「待望のお妃様に、侍女達が張り切っていると伯父様から聞いておりますわ。侍女長もつい力を入れすぎてしまのでしょう」
マクリーンによるお勉強の、あれが“つい”というレベルなのか。やる気を見せなかったり、間違えると浴びせられる機関銃のような解説と魔王とは違う部類の強烈な圧力を思い出して、理子は苦笑いを浮かべてしまった。
「それとも、ダルマン侯爵がしつこいのですか?」
「えっ」と、大きく目を見開いた。
耳が早いと感心するべきか、ベアトリクスはどこまで知っているのだろう。
連日理子宛に、カルサエル・ダルマン侯爵から贈り物が届いているのだ。
お菓子や珍しい茶葉は嬉しいが、装飾品や花束など高価すぎる分不相応な贈り物はどうしたらいいのか困る。
「しつこいというか、ただ私には勿体ない贈り物ばかりで申し訳無いというか」
添えられたカードに書かれた理子を称賛するメッセージも恥ずかしくなる内容で、初対面の上から見下すような鋭い視線のカルサエルとは違いすぎて困惑してしまう。
一度、花束とカードをシルヴァリスに見付かり、不機嫌な彼の手で握り潰され瞬時に灰と化していたが。
「お困りならはっきり言わないと、あの方は止めてくださらないと思います。リコ様に取り入ればダルマン侯爵家の血筋の令嬢をお妃様の侍女に、上手くいけばお世継ぎ様の側近候補になれる可能性もありますもの。侯爵ご自身は強い魔力をお持ちで見目麗しい方ですから、もしかしたらリコ様の情夫でも狙っているのかも」
「じょっ情夫!?」
衝撃的のベアトリクスの発言に、理子はゴホッと飲んでいた紅茶を吐き出しかけた。
地位固めに取り入りたいのは分かるけれど、情夫、愛人目当てだとは考えつかなかった。
高貴な女性とか悪役女王様だったら、気位が高くて冷たい美貌の男性を侍すという状況は鳥肌ものなのだろうな、とは思う。
「ダルマン侯爵家は、魔貴族の中でも古参で他家に強い影響力を持っているため、魔王様も抹消したくとも迂闊には手を出せません。でも、魔王様が本気でお怒りになられたら一族郎党全て消してしまうでしょう。侯爵も節度は守ってくださるはずです」
他家との繋がりがあるため、花束とメッセージカードを見たシルヴァリスが苦々しい表情をしていたのか。
魔王不在のタイミングで届く贈り物は、まるでカルサエルからの嫌がらせみたいだ。
シルヴァリスの顔を思い浮かべて、理子の胸がぎゅうっと締め付けられるように痛くなる。
「あの……ベアトリクス様、今、魔王様はお忙しいのかな?」
仕事と王妃教育の疲れから、ベッドに横になると即寝入ってしまっているため、ここ二日間シルヴァリスとは顔を合わしていなかった。
口を開く前にベアトリクスは、壁際に控えていた侍女達へ視線を送り下がらせる。
「キルビス伯父様によると、大陸の人族の国々の情勢が緊迫していて、中でも大国のアネイルは他国との戦に備えて勇者を召喚したとか。アネイル国王と第二王子が魔国へ喧嘩を吹っ掛けているみたいですし、魔王様は諸外国とアネイル国の調整をされているのだと思います。魔国はどこの国とも中立を保っていますから」
「私、全然知らなかった」
ここ数日、シルヴァリスは理子が目覚める前に出ていって深夜に戻ってきていた。戦争回避のため、動いていたなど知らなかった。魔法や魔王があるこの世界には勇者様も存在しているのか。
そこまで考えて、理子は嫌な予感に襲われた。
物語の勇者は、世界の平和をかけて魔王を倒すために召喚されているのではなかったか。
黙ってしまった理子を気遣ってか、ベアトリクスは安心させるように可愛らしく微笑んだ。
「わたくしは伯父様から愚痴混じりに聞いているから知っているだけで、リコ様が御存じ無いのは仕方がない事ですよ?」
丸型テーブルに身を乗り出して腕を伸ばすものだから、気遣ってくれるベアトリクスには悪いが、理子の目線は彼女の豊かな胸がテーブルの乗っかっているのに釘付けになってしまった。
「リコ様?」
不埒な理子の目線に気付いたベアトリクスは、きょとんと首を傾げる。
慌てた理子は「ううん?」と笑って何とか誤魔化した。
魔王様のお仕事が忙しいのに、シルヴァリスが理子の事まで気を配ってくれるのは嬉しい反面、大丈夫かと心配になる。
まだ新婚生活が始まってもいないのに、旦那様が過労で疲れ果てるのは嫌だ。せめて、妻として旦那様が家庭に帰ったら安らげるよう迎えてあげなければ。
「労ってあげなきゃ」
誰を、とは言わなかったのにベアトリクスは頬を赤く染めた。