くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
勤務時間が終了して着替えるために更衣室へやって来た理子は、更衣室へ入ってドアを閉めた瞬間固まった。
「ひっ」
薄暗い更衣室のロッカーの前に誰か立っている。
ブラインドカーテンの隙間から差し込む夕陽の光が逆光になっていて、顔立ちはよく見えないがシルエットから男だというのは分かった。
「痴漢っ」
後退り、ドアノブに手をかける私に侵入者は慌て出す。
「ち、違うって俺は、あれ?」
何かに気付いた侵入者が理子の顔をじっと見る。
聞き覚えのある侵入者の声に、理子も一歩前へと近付いて、気が付いた。
「この前の男の子?」
パチッ
ドア横の壁のスイッチを押せば、薄暗い更衣室が明るくなる。
一気に明るくなる室内に、侵入者は体を揺らして怯んだ。
「あの、此処は会社の更衣室だよ。どうやって入ったの?」
明るくなって気持ちに余裕が出た理子は、まじまじと侵入者を見る。
やはり、彼は電車で会った謎の少年だった。
電車内で会った時は、ぼろぼろだった外見は整えられており、騎士の隊服のような青と白の服に黒髪は後ろへ撫で付けてある。
かっちりした服装だから余計にそう見えるのか、少年はアイドルになれそうなくらい整った顔だちをしていた。
涼しげな目元に薄い唇、少し日に焼けた肌で、少し前まで日曜日の朝放送していた特撮ヒーローのお兄さんに似ていた。
此処が女性更衣室でなければ、イベント会場のコスプレ用更衣室で着替えに着た少年に見える。
「分からない、俺は部屋に戻ろうとドアを開けただけで……とにかく、覗きとか痴漢じゃないからっ」
必死で痴漢じゃないと訴える少年に、理子は可笑しくなってクスリッと笑う。
警戒心を解いた理子にホッとしたのか、少年は眉尻を下げて周囲を見渡した。
「なぁ、此処って日本なのか? あんたは日本人?」
「そうだけど君も日本人、だよね?」
黒髪に焦げ茶色の瞳の彼は、純日本人にしか見えない。
少年はコクコク頷き、両手で顔を覆った。
「これって、やっぱり夢かな? でも、日本人に会えたなら夢でもいいや。殺らなきゃ死ぬかもしれないし」
殺る、死ぬ、という物騒な言葉が少年の口から出てきて、理子は目を見開いて彼を見た。
「君は何をしていたの?」
更衣室で良からぬ事をしていた、ではなく、少年は何処で何をしていたのだろか。
彼の様子は、取り巻く空気は、明らかに変だ。
顔を上げた少年の姿がグニャリと歪む。
「俺は……世界を……姫さ……」
ザッ、ザザッ……
ノイズが入るテレビ画面のように少年の姿が歪んでいき、プツンッと音を立てて消えていった。
「消えた……?」
夢でも幻でも無い。ただ、これだけは分かった。
少年は取り巻く空気は理子がよく知っているものだった。
少年の周りに漂っていたあれは、魔力というやつだろう。
魔力を使える日本人は初めて会った。あの少年は、おそらく異世界の何かに関わっている。
もしかしたら彼は異世界の誰かに囚われているのでは無いか。
理子が魔王に囚われているように。
「君はこれから何をするの?」
少年が居た場所へ問い掛けてみても、答える者はいなかった。
「ひっ」
薄暗い更衣室のロッカーの前に誰か立っている。
ブラインドカーテンの隙間から差し込む夕陽の光が逆光になっていて、顔立ちはよく見えないがシルエットから男だというのは分かった。
「痴漢っ」
後退り、ドアノブに手をかける私に侵入者は慌て出す。
「ち、違うって俺は、あれ?」
何かに気付いた侵入者が理子の顔をじっと見る。
聞き覚えのある侵入者の声に、理子も一歩前へと近付いて、気が付いた。
「この前の男の子?」
パチッ
ドア横の壁のスイッチを押せば、薄暗い更衣室が明るくなる。
一気に明るくなる室内に、侵入者は体を揺らして怯んだ。
「あの、此処は会社の更衣室だよ。どうやって入ったの?」
明るくなって気持ちに余裕が出た理子は、まじまじと侵入者を見る。
やはり、彼は電車で会った謎の少年だった。
電車内で会った時は、ぼろぼろだった外見は整えられており、騎士の隊服のような青と白の服に黒髪は後ろへ撫で付けてある。
かっちりした服装だから余計にそう見えるのか、少年はアイドルになれそうなくらい整った顔だちをしていた。
涼しげな目元に薄い唇、少し日に焼けた肌で、少し前まで日曜日の朝放送していた特撮ヒーローのお兄さんに似ていた。
此処が女性更衣室でなければ、イベント会場のコスプレ用更衣室で着替えに着た少年に見える。
「分からない、俺は部屋に戻ろうとドアを開けただけで……とにかく、覗きとか痴漢じゃないからっ」
必死で痴漢じゃないと訴える少年に、理子は可笑しくなってクスリッと笑う。
警戒心を解いた理子にホッとしたのか、少年は眉尻を下げて周囲を見渡した。
「なぁ、此処って日本なのか? あんたは日本人?」
「そうだけど君も日本人、だよね?」
黒髪に焦げ茶色の瞳の彼は、純日本人にしか見えない。
少年はコクコク頷き、両手で顔を覆った。
「これって、やっぱり夢かな? でも、日本人に会えたなら夢でもいいや。殺らなきゃ死ぬかもしれないし」
殺る、死ぬ、という物騒な言葉が少年の口から出てきて、理子は目を見開いて彼を見た。
「君は何をしていたの?」
更衣室で良からぬ事をしていた、ではなく、少年は何処で何をしていたのだろか。
彼の様子は、取り巻く空気は、明らかに変だ。
顔を上げた少年の姿がグニャリと歪む。
「俺は……世界を……姫さ……」
ザッ、ザザッ……
ノイズが入るテレビ画面のように少年の姿が歪んでいき、プツンッと音を立てて消えていった。
「消えた……?」
夢でも幻でも無い。ただ、これだけは分かった。
少年は取り巻く空気は理子がよく知っているものだった。
少年の周りに漂っていたあれは、魔力というやつだろう。
魔力を使える日本人は初めて会った。あの少年は、おそらく異世界の何かに関わっている。
もしかしたら彼は異世界の誰かに囚われているのでは無いか。
理子が魔王に囚われているように。
「君はこれから何をするの?」
少年が居た場所へ問い掛けてみても、答える者はいなかった。