くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
遅めの朝食に、スクランブルエッグとトーストした食パンにチーズとハムを挟んだサンドイッチを作り、父親と食べた理子は、忘れ物は無いか確認をして洗面所から出た。
「もう帰るのかい? もう少しのんびりしてけば良いのに」
帰り支度をする理子に、何度もゆっくりしていけと言う父親の背中は寂しそうに項垂れていた。
「のんびりしていきたいけど、明日は仕事だし、お母さんと亜子お姉ちゃんが帰ってくる前に出たいから」
母親と姉が帰ってきたら面倒だ。
父親に、次は未来の旦那様を連れてくると約束して、理子は実家を後にした。
もう少しゆっくり父親と話していきたい気持ちもあったが、それ以上に理子は帰りたかった。
以前、理子の部屋だった場所は今や姉の衣装部屋となり姉の物で溢れかえり、自分の物はほぼ処分されていたのは寂しさを覚えた。実家を出た身ではそれは仕方がない。
実家へ帰って父親に会って、確かに気持ちは落ち着けたけれどはっきりと実感した。
此処には、自分の居場所はない、と。
早く帰って、魔王に逢いたかった。逢いたい、声を聞きたい、抱き締めて欲しい。
たった数日間逢えないだけで、こんなにも寂しく感じるだなんて末期だと自分でも思う。
駅までの道を歩いていた理子は、ふと違和感を覚えて足を止めた。
(何か変?)
地元は都会ではないとはいえ、歩いているのは普段賑わっている筈のアーケード街。
特に今は昼前の時間帯で、買い物客が多いだろうに人が歩いていないのだ。
買い物客だけでなく、店頭に立つ店員の姿も見当たらない。
明らかにおかしい状況に、理子の背中に冷たいものが走る。
誰かいないのかと、不安に駆られながら理子はキョロキョロと辺りを見渡した。
「お前……」
背後から低い女性の声が聞こえて、理子は振り返った。
「っ!?」
振り返ってハッと息を飲む。
足首までの長い丈の、元は光沢あるシルクの薄汚れたネグリジェを着た、くすんだ長い金髪の女性が俯いて立っていた。
ネグリジェ姿の上に裸足という異様な姿の女性に、怯んで無視しようか一瞬迷う。
「あの、大丈夫、ですか?」
大丈夫では無いだろうと思いつつも、無視も出来ずに理子は彼女に声をかける。
理子の声に反応して、女性はゆっくりと顔を上げた。
「えっ!?」
女性の顔を確認して、ギョッとして目を見開いてしまった。
とても、綺麗な女性だった。
くすんでいるけれど、腰まである金髪に水色の瞳を縁取る長い睫毛、さくらんぼみたいにぷっくりとした赤い唇。
綺麗より、可憐な女性。だが、彼女の顔中は薄い黒い靄のような物に覆われていたのだ。
薄い霧のような物は、ざわざわ蠢いて彼女の肌にまとわり付く。
驚く理子へ向かって女性が伸ばした腕の、ネグリジェから出た部分、両手首から指先まではネックレスのチェーン程の黒い鎖にびっしりと覆われていた。
後退る理子を、女性は水色の瞳を吊り上げて睨み付けた。
「これが? この女が私より綺麗で優れているですって?」
一歩前へ進んだ女性は、理子との距離を詰める。
「これが、お前が、魔王様が選んだ寵姫ですって?」
“魔王”“寵姫”という言葉から、彼女が彼方の世界から来た事を覚った。
早く逃げなければ、気持ちは焦るのに体が動いてくれない。
目を吊り上げた女性に、射殺されるのではないか、というくらいの殺意を向けられて、理子の体は金縛りにあったみたいに動いてくれなかった。
「貴女は……」
女性の瞳から感じられるのは、嫉妬、憎悪。
彼女は魔王に何かされたのだろうか。
「許せないわ! お前のせいで、私は!」
固まる理子の腕を女性が掴む。
爪が皮膚に食い込むほどの力で掴まれた腕の痛みに、我にかえった理子はうっと小さく呻いた。
「もう帰るのかい? もう少しのんびりしてけば良いのに」
帰り支度をする理子に、何度もゆっくりしていけと言う父親の背中は寂しそうに項垂れていた。
「のんびりしていきたいけど、明日は仕事だし、お母さんと亜子お姉ちゃんが帰ってくる前に出たいから」
母親と姉が帰ってきたら面倒だ。
父親に、次は未来の旦那様を連れてくると約束して、理子は実家を後にした。
もう少しゆっくり父親と話していきたい気持ちもあったが、それ以上に理子は帰りたかった。
以前、理子の部屋だった場所は今や姉の衣装部屋となり姉の物で溢れかえり、自分の物はほぼ処分されていたのは寂しさを覚えた。実家を出た身ではそれは仕方がない。
実家へ帰って父親に会って、確かに気持ちは落ち着けたけれどはっきりと実感した。
此処には、自分の居場所はない、と。
早く帰って、魔王に逢いたかった。逢いたい、声を聞きたい、抱き締めて欲しい。
たった数日間逢えないだけで、こんなにも寂しく感じるだなんて末期だと自分でも思う。
駅までの道を歩いていた理子は、ふと違和感を覚えて足を止めた。
(何か変?)
地元は都会ではないとはいえ、歩いているのは普段賑わっている筈のアーケード街。
特に今は昼前の時間帯で、買い物客が多いだろうに人が歩いていないのだ。
買い物客だけでなく、店頭に立つ店員の姿も見当たらない。
明らかにおかしい状況に、理子の背中に冷たいものが走る。
誰かいないのかと、不安に駆られながら理子はキョロキョロと辺りを見渡した。
「お前……」
背後から低い女性の声が聞こえて、理子は振り返った。
「っ!?」
振り返ってハッと息を飲む。
足首までの長い丈の、元は光沢あるシルクの薄汚れたネグリジェを着た、くすんだ長い金髪の女性が俯いて立っていた。
ネグリジェ姿の上に裸足という異様な姿の女性に、怯んで無視しようか一瞬迷う。
「あの、大丈夫、ですか?」
大丈夫では無いだろうと思いつつも、無視も出来ずに理子は彼女に声をかける。
理子の声に反応して、女性はゆっくりと顔を上げた。
「えっ!?」
女性の顔を確認して、ギョッとして目を見開いてしまった。
とても、綺麗な女性だった。
くすんでいるけれど、腰まである金髪に水色の瞳を縁取る長い睫毛、さくらんぼみたいにぷっくりとした赤い唇。
綺麗より、可憐な女性。だが、彼女の顔中は薄い黒い靄のような物に覆われていたのだ。
薄い霧のような物は、ざわざわ蠢いて彼女の肌にまとわり付く。
驚く理子へ向かって女性が伸ばした腕の、ネグリジェから出た部分、両手首から指先まではネックレスのチェーン程の黒い鎖にびっしりと覆われていた。
後退る理子を、女性は水色の瞳を吊り上げて睨み付けた。
「これが? この女が私より綺麗で優れているですって?」
一歩前へ進んだ女性は、理子との距離を詰める。
「これが、お前が、魔王様が選んだ寵姫ですって?」
“魔王”“寵姫”という言葉から、彼女が彼方の世界から来た事を覚った。
早く逃げなければ、気持ちは焦るのに体が動いてくれない。
目を吊り上げた女性に、射殺されるのではないか、というくらいの殺意を向けられて、理子の体は金縛りにあったみたいに動いてくれなかった。
「貴女は……」
女性の瞳から感じられるのは、嫉妬、憎悪。
彼女は魔王に何かされたのだろうか。
「許せないわ! お前のせいで、私は!」
固まる理子の腕を女性が掴む。
爪が皮膚に食い込むほどの力で掴まれた腕の痛みに、我にかえった理子はうっと小さく呻いた。