くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
遅めの昼休憩に入った理子は、社員食堂でボンヤリとラーメンを啜っていた。
休憩前に上司から追加の仕事を渡されたから、今日も残業確実だと思うとラーメンの味もよく分からなくなる。
「元気?」
目を擦る理子の向かい側に、缶コーヒーを二つ手にした友人であり同期の香織が座った。
「理子眠そうだねー。騒音は解決したんじゃないっけ」
「騒音問題は解決したけど、変な夢をみてね」
変な夢をみていたせいか、今日は朝から少し体調が悪いのだ。とはいえ、体調が悪いのは連日の残業のせいだと確信していた。
ヘラリと笑う理子に、香織は無言で缶コーヒーを差し出す。
見た目は気が強くキツイ印象を与える美女でも、話せば物腰はやわらかく優しい。おまけに然り気無く気遣ってくれる。
「そうそう、前に譲ったお守りの効果はどう?」
「あー、あれね。特に無いかな」
口に入れた麺をもぐもぐ咀嚼してから理子は口を開いた。
「恋愛に繋がるような出逢いは無いの?」
「出逢い、ねぇ」
何かあったかな、と首を傾げた。
平日は職場と家の往復、休日も休日出勤か寝ていただけの生活で恋愛に繋がる出逢いはあったのかと考える。
男性と関わった記憶は、仕事関係か買い物先の店員さんしかない。
顔を合わせはいないけれど、魔王とは毎日会話していた。しかし、人外は対象外だ。
理子の返事を期待に満ちた目で待っている香織に、部屋の壁に開けた穴が魔王の寝室に繋がってしまったとは言えない。
自分でも意味不明だし、疲れて頭がおかしくなったかと心配されるのがオチだ。
「特に、無いかな。今は恋愛に興味無いし」
世界観や生活面に興味がある魔王は人外で、角や羽根や尻尾が生えているかもしれない相手は恋愛対象にならない。
理子の答えに、香織は大袈裟に溜め息を吐いた。
「もうっ! 理子は相変わらず枯れているよね」
「期待に沿えなくて申し訳ない。恋愛より興味があるとしたら、次の人事かな」
上司と後輩に嫌われている理子には、あと一月もしたら人事異動の話も出るだろう。
他部署か違う支社への異動は覚悟している。県外への転勤となったら引っ越し準備が大変だ。
「……成る程。で、大丈夫?」
上司から理子への風当たりの強さは隣の部署所属の香織も知っている。
心配そうに香織は眉間に皺を寄せる。
上司を諌めてくれた方もいたが「期待しているから」と言われればそれまで。
今では、重要書類を回さない嫌がらせをする上に、残業間際に仕事を押し付けて後輩と帰ってしまうような上司と、理子に対して優越感を滲ませて上から目線で接してくる後輩には負けたくはない。
「うん。まだ大丈夫かな」
幸いにも、仕事自体は好きで楽しいと感じている。あと少しの辛抱だと思えば頑張れる。
***
「……コ、リコ」
何度か名前を呼ばれて、うとうと眠りの淵を漂っていた理子の意識は浮上する。
「あれ? 魔王、様?」
重い目蓋をこじ開けて、理子は顔だけ壁際のタンスに向ける。
シャワーを浴びてからベッドに腰かけたまでは意識があったのに、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
「けほっ、ごめん、なさい。うっかり寝ていました」
寝起きで違和感がある喉から絞り出した声は掠れていて、理子はゲホゲホと咳き込んだ。
「最近忙しいから、ちょっと仕事で疲れちゃったみたい」
会社で心配してくれた香織には「大丈夫」と言いつつ、家に帰って気がゆるんだのだろう。
中途半端に寝たせいで、体は動かないし起き上がる気力もない。
重たい体を動かすのを理子は早々に諦めた。
こういう時は、お互い姿が見えない壁越しの状態で良かったと思いながら重たい目蓋を閉じた。
休憩前に上司から追加の仕事を渡されたから、今日も残業確実だと思うとラーメンの味もよく分からなくなる。
「元気?」
目を擦る理子の向かい側に、缶コーヒーを二つ手にした友人であり同期の香織が座った。
「理子眠そうだねー。騒音は解決したんじゃないっけ」
「騒音問題は解決したけど、変な夢をみてね」
変な夢をみていたせいか、今日は朝から少し体調が悪いのだ。とはいえ、体調が悪いのは連日の残業のせいだと確信していた。
ヘラリと笑う理子に、香織は無言で缶コーヒーを差し出す。
見た目は気が強くキツイ印象を与える美女でも、話せば物腰はやわらかく優しい。おまけに然り気無く気遣ってくれる。
「そうそう、前に譲ったお守りの効果はどう?」
「あー、あれね。特に無いかな」
口に入れた麺をもぐもぐ咀嚼してから理子は口を開いた。
「恋愛に繋がるような出逢いは無いの?」
「出逢い、ねぇ」
何かあったかな、と首を傾げた。
平日は職場と家の往復、休日も休日出勤か寝ていただけの生活で恋愛に繋がる出逢いはあったのかと考える。
男性と関わった記憶は、仕事関係か買い物先の店員さんしかない。
顔を合わせはいないけれど、魔王とは毎日会話していた。しかし、人外は対象外だ。
理子の返事を期待に満ちた目で待っている香織に、部屋の壁に開けた穴が魔王の寝室に繋がってしまったとは言えない。
自分でも意味不明だし、疲れて頭がおかしくなったかと心配されるのがオチだ。
「特に、無いかな。今は恋愛に興味無いし」
世界観や生活面に興味がある魔王は人外で、角や羽根や尻尾が生えているかもしれない相手は恋愛対象にならない。
理子の答えに、香織は大袈裟に溜め息を吐いた。
「もうっ! 理子は相変わらず枯れているよね」
「期待に沿えなくて申し訳ない。恋愛より興味があるとしたら、次の人事かな」
上司と後輩に嫌われている理子には、あと一月もしたら人事異動の話も出るだろう。
他部署か違う支社への異動は覚悟している。県外への転勤となったら引っ越し準備が大変だ。
「……成る程。で、大丈夫?」
上司から理子への風当たりの強さは隣の部署所属の香織も知っている。
心配そうに香織は眉間に皺を寄せる。
上司を諌めてくれた方もいたが「期待しているから」と言われればそれまで。
今では、重要書類を回さない嫌がらせをする上に、残業間際に仕事を押し付けて後輩と帰ってしまうような上司と、理子に対して優越感を滲ませて上から目線で接してくる後輩には負けたくはない。
「うん。まだ大丈夫かな」
幸いにも、仕事自体は好きで楽しいと感じている。あと少しの辛抱だと思えば頑張れる。
***
「……コ、リコ」
何度か名前を呼ばれて、うとうと眠りの淵を漂っていた理子の意識は浮上する。
「あれ? 魔王、様?」
重い目蓋をこじ開けて、理子は顔だけ壁際のタンスに向ける。
シャワーを浴びてからベッドに腰かけたまでは意識があったのに、いつの間にか寝てしまっていたようだ。
「けほっ、ごめん、なさい。うっかり寝ていました」
寝起きで違和感がある喉から絞り出した声は掠れていて、理子はゲホゲホと咳き込んだ。
「最近忙しいから、ちょっと仕事で疲れちゃったみたい」
会社で心配してくれた香織には「大丈夫」と言いつつ、家に帰って気がゆるんだのだろう。
中途半端に寝たせいで、体は動かないし起き上がる気力もない。
重たい体を動かすのを理子は早々に諦めた。
こういう時は、お互い姿が見えない壁越しの状態で良かったと思いながら重たい目蓋を閉じた。