くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
「あの、シルヴァリス様、ダルマン侯爵は……?」

 甘い雰囲気に流される前に気になっていたカルサエルの処遇について問う。
 あの時の魔王様の言動からは、カルサエルを無罪放免にするとは考えられないからだ。

「お前が気にすることではない」
「そうですけど……」

 キッパリ言い切られて終了させられると、それ以上は聞きにくくて眉尻を下げた。
 呆れた様にシルヴァリスは深い息を吐く。

「まったく、お前は、久々に愛しい妻に触れられて喜ぶ夫を労ってはくれぬのか?」
「い、労るって」

 何の事と首を傾げかけて、理子は数日前にベアトリクスが教えてくれた事を思い出す。
 そうだった。魔王様は人族の国々の戦争回避のために色々動き回ったり、勇者となった翔真君と戦って疲れているのだ。

 羞恥心を抑えて、理子は背筋と首を伸ばして目を閉じた。

 ちゅっ

 軽いリップ音を立てて離れる唇。乏しい知識では、ここまで密着した状態で労るといったらハグかキスしか浮かばず、初めて自分からシルヴァリスへ口付けた。

「シルヴァリス様……お帰りなさい」

 恥ずかしくて逸らしたくなるのを我慢して、理子は視線を真っ直ぐシルヴァリスへと向ける。
 顔中だけじゃなく全身が熱を持って熱い。今の自分は、全身茹で蛸みたいに真っ赤に染まっていることだろう。

「ああ、ただいま」

 心なしか、シルヴァリスの目元がほんのりと赤くなっている様に見える。

 まさか、と思いながら半開きにしていた理子の唇をシルヴァリスの唇が塞ぐ。
 半開きの唇からヌルリと舌を差し込まれて、舌を絡ませながら深くなっていく口付け。
 口付けに夢中になっている理子の背中にはいつの間にか腕が回され、長い指先がドレスの胸元から中へと侵入してくる。

(駄目っまだ聞きたいことが……!)

 それ以上先へ進まないように、肌を這う指先を理子は抱き締めた。
 焦った理子は顔を背けて無理矢理唇を離す。引き抜いた舌からは、透明の糸が垂れて口元を濡らした。
 
「ま、まって! もう一つ聞きたいことがあるのっ。シルヴァリス様はこうなる事を予測していたの?」

 ピクリッ、と胸元を弄る指の動きが止まる。

「何をだ?」
「もしかして、私は貴方に利用されたのかなって思った、の。ダルマン侯爵を動かすため、に」

 城へ戻った後に思い返して、魔王によって私が妃候補にされてからカルサエルが行動を起こした時期が重なると気が付いた。
 これは偶然、にしてはタイミングが良すぎる。
 魔国へ理子を召喚した時から、魔王は山田理子の存在も計略の中へ組み込んでいたとしか考えられなかった。

 最初に「興味を持った」のは企みに使えるかどうかで、今更シルヴァリスからの重すぎる愛情は疑うことはしないが、山田理子を「愛してしまった」のは魔王にとって誤算だったのかもしれない。


「さて、どうだろうな」

 ニヤリッと、シルヴァリスは不敵な笑みを返す。

「誤魔化さないっ、んんっ」

 続く言葉は、唇に噛み付かれてしまい発せられなかった。


 ゆっくりじっくりと重すぎる愛情を注がれていると、たとえ全てが魔王様の手のひらの上で転がされていたとしても、それでもいいかなと思ってしまう。
 壊れ物を扱うみたいに優しく触れてくる、シルヴァリスの指と媚薬のように甘い唇と舌によって、理子の体も思考もどろどろに蕩けさせられてしまうのだった。


 色々あって逢えなかった数日分を取り戻す様に、魔王によって散々愛されてしまった理子は、翌日の昼近くまでベッドから出られなくなった。

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