くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
最寄り駅へ到着して、実家までタクシーで行こうとタクシー乗り場へ向かう。
「え、歩くの?」
「ああ。駄目か?」
駅から出てタクシーを見たシルヴァリスが向けた素敵な笑顔に負け、実家まで徒歩で向かうこととなった。
徒歩だと体力的、精神的に大変だとは一応伝えてみたが「ならば、俺が抱いていこう」と、本当に駅の構内でお姫様抱っこをされてしまい、半泣きで許してもらったのだ。
「リコ、これは何だ?」
周囲から注目されるのは慣れているらしい魔王様は、駅前のアーケード街の店舗を珍しそうに覗いて行く。
見た目、美形の外人さんが興味津々で店先を覗いているものだから、店員に声をかけられてなかなか先へ進めない。
一緒にいる理子も、試食品を貰ったり用意するのを忘れていた実家への手土産を割引してもらえたのはありがたいとはいえ、恥ずかしい。
後少しでアーケード街を抜けるという所で、前方から小走りでやって来た人物に気付いて理子はゲッと呻いてしまった。
「やっぱり理子ちゃん!? まぁー彼氏さんと一緒なの?」
大声で私の名前を呼ぶふくよかな中年女性は、所謂、実家のご近所さんでお喋りさんの別名を持つ人物だった。
「こんにちは。彼は……」
面倒な相手に見つかって内心舌打ちしつつ、勘違いした話を流されるよりはと彼女に好意的な笑顔を作った。
紹介する前に、シルヴァリスは理子の前へ出て女性の片手を取る。
「リコの夫ですよ。マダム、妻がお世話になっております」
「まぁ……」
別人か別人格になったしまったかの様に、シルヴァリスは彼女と目を合わせて柔らかく微笑む。
魔王様としての彼を知ってる者が見たら吃驚して二度見をするのではないか。特に、キルビス宰相が見たら爆笑するだろう。
女性の頬がほのかに赤く染まっていたのは、見間違えか気のせいだと理子は自分に言い聞かせた。
「おめでとう! 理子ちゃんったらいつの間に結婚したの? こんなに素敵な旦那様でいいわねぇ~。うちの娘も格好いい旦那様を連れてきて欲しいわ~」
理子の肩を擦る女性は堪えきれないニヤケ笑いをしている。きっと、夕方には実家の近所中にこの話が広がるだろう。
女性の様子を面白そうに観察しているシルヴァリスへ、つい恨めしい視線を送ってしまった。
「さっきは何で夫だと言ったの? あのおばさんはお喋りだから、明日には近所中にこの事が広まってしまう」
学生の頃、姉の見た目と男関係が派手だったせいで実家、姉の話はお喋りなご近所さん達の話のネタとされていた。
真面目だと思っていた山田家の次女が、突然外人の旦那を連れてきたと彼女達の話のネタにされてしまう。
実家から離れている自分はいいが、母親と姉に文句を言われるかもしれない。
対応を考えると嫌になって、理子は溜め息を吐いてしまった。
「良かったではないか。次の里帰りとやらはもっと目立つ様にせねばな」
「はっ? まさか、シルヴァリス様?」
わざわざ徒歩で行きたいとか、お喋りさんへ好意的に接していたのは異世界を満喫したいだけだと思っていたけれど、今の発言で確信した。
山田理子を知る人達へ、自分の存在、自分が夫だと彼はアピールしているのだ。
意味の無いことをする男でない事は知っている。では、何のためにそんな事をやっているのだろうか。
実家に着いてから、シルヴァリスが家族へ何を言い出すのか、理子は今更ながら緊張で体が固くなるのを感じた。
「え、歩くの?」
「ああ。駄目か?」
駅から出てタクシーを見たシルヴァリスが向けた素敵な笑顔に負け、実家まで徒歩で向かうこととなった。
徒歩だと体力的、精神的に大変だとは一応伝えてみたが「ならば、俺が抱いていこう」と、本当に駅の構内でお姫様抱っこをされてしまい、半泣きで許してもらったのだ。
「リコ、これは何だ?」
周囲から注目されるのは慣れているらしい魔王様は、駅前のアーケード街の店舗を珍しそうに覗いて行く。
見た目、美形の外人さんが興味津々で店先を覗いているものだから、店員に声をかけられてなかなか先へ進めない。
一緒にいる理子も、試食品を貰ったり用意するのを忘れていた実家への手土産を割引してもらえたのはありがたいとはいえ、恥ずかしい。
後少しでアーケード街を抜けるという所で、前方から小走りでやって来た人物に気付いて理子はゲッと呻いてしまった。
「やっぱり理子ちゃん!? まぁー彼氏さんと一緒なの?」
大声で私の名前を呼ぶふくよかな中年女性は、所謂、実家のご近所さんでお喋りさんの別名を持つ人物だった。
「こんにちは。彼は……」
面倒な相手に見つかって内心舌打ちしつつ、勘違いした話を流されるよりはと彼女に好意的な笑顔を作った。
紹介する前に、シルヴァリスは理子の前へ出て女性の片手を取る。
「リコの夫ですよ。マダム、妻がお世話になっております」
「まぁ……」
別人か別人格になったしまったかの様に、シルヴァリスは彼女と目を合わせて柔らかく微笑む。
魔王様としての彼を知ってる者が見たら吃驚して二度見をするのではないか。特に、キルビス宰相が見たら爆笑するだろう。
女性の頬がほのかに赤く染まっていたのは、見間違えか気のせいだと理子は自分に言い聞かせた。
「おめでとう! 理子ちゃんったらいつの間に結婚したの? こんなに素敵な旦那様でいいわねぇ~。うちの娘も格好いい旦那様を連れてきて欲しいわ~」
理子の肩を擦る女性は堪えきれないニヤケ笑いをしている。きっと、夕方には実家の近所中にこの話が広がるだろう。
女性の様子を面白そうに観察しているシルヴァリスへ、つい恨めしい視線を送ってしまった。
「さっきは何で夫だと言ったの? あのおばさんはお喋りだから、明日には近所中にこの事が広まってしまう」
学生の頃、姉の見た目と男関係が派手だったせいで実家、姉の話はお喋りなご近所さん達の話のネタとされていた。
真面目だと思っていた山田家の次女が、突然外人の旦那を連れてきたと彼女達の話のネタにされてしまう。
実家から離れている自分はいいが、母親と姉に文句を言われるかもしれない。
対応を考えると嫌になって、理子は溜め息を吐いてしまった。
「良かったではないか。次の里帰りとやらはもっと目立つ様にせねばな」
「はっ? まさか、シルヴァリス様?」
わざわざ徒歩で行きたいとか、お喋りさんへ好意的に接していたのは異世界を満喫したいだけだと思っていたけれど、今の発言で確信した。
山田理子を知る人達へ、自分の存在、自分が夫だと彼はアピールしているのだ。
意味の無いことをする男でない事は知っている。では、何のためにそんな事をやっているのだろうか。
実家に着いてから、シルヴァリスが家族へ何を言い出すのか、理子は今更ながら緊張で体が固くなるのを感じた。