くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
 普通に歩いて駅から実家までは三十分で着くのに、シルヴァリスが寄り道をするものだから一時間以上かかってしまった。

 さらに、実家へ着く前に隣家のお宅へ回覧板を届けに来たお婆さんと会ってしまい、そこでも結婚報告をすることになって理子はひきつった笑みを浮かべる。

「ご両親も喜ぶわよ」

 お婆さんからはにこやかにそう言われたが、理子は内心複雑だった。

 父親と姉とは二ヶ月前に会っていたが、何だかんだと理由をつけて会うのを避けていた母親と顔を合わせるのは約一年ぶり。シルヴァリスを連れて帰ってどんな反応をされるかと思うと、呼び鈴を押す指が震える。

 ピンポーン、
 覚悟を決めて呼び鈴を押してから私は勢いよく玄関引き戸を引いた。

「ただいまー」

 バタバタ足音を立てて奥からやって来たのは姉の亜子。二ヶ月ぶりに会う理子を笑顔で出迎える。

「お帰りー! 遅かった、ねっ!?」

 理子の後ろに立ったシルヴァリスを見て、亜子は笑顔のまま固まった。

「えっ、こちらが?」

 たっぷり十数秒固まった後、口元をひきつらせて問う亜子に「うん」と頷けば、小声で「嘘っ」と呟く声が聞こえた。

「なんで? めちゃめちゃ格好いいじゃん、理子は不細工好きかと思っていたのに」
「亜子お姉ちゃん……失礼だよ」

 ただ単に姉が格好いいと言うタイプは好きになれないだけ。派手好きな彼女とは好みが合わないだけだ。


「亜子ちゃーん、理子が来たの?」

 パタパタとスリッパを履いた足音を響かせ、今度は奥から母親がやって来た。
 久し振りに会う母親に、理子はつい身構えてしまう。

「お母さん、久し振り」

 ぎこちなく言う理子を通り越して母親の視線は、後ろに立ったシルヴァリスへ向かっていた。
 姉の亜子と同じようにポカンと口を開けて固まる。

 二人の反応から、どうやら父親は事前にシルヴァリスの容姿等、詳しいことは伝えてなかったようだ。
 固まる母親と姉に遅れてやって来た父親は、理子に向かって片手を上げてピースをし、したり顔でニヤリと笑う。
 結婚相手を連れてくると伝えてあったのに、普段着のジャージ姿でいるのが父親らしくて、少し緊張が和らいだ。

「お帰りー。ほへー写真よりいい男だなぁ。初めまして理子の父親です。ほらほら、突っ立ってないで家に上がって。お母さん、茶の準備を頼むよ」

 父上の言葉で弾かれたように動き出した母親は、挨拶もそこそこにキッチンへと引っ込んでしまった。
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