くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
 給仕係りが運んでくる食事はとても美味しく、肉と魚料理は食べやすく一口サイズに切り分ける細やかな気遣いがあり、コルセットが無ければ最高の食事だったと思う。

 ただ一つ、不満を言うとしたら……

 ぴくんっ

 太股に感じた刺激で、理子のフォークを持つ手が止まる。

「シルヴァリス様……」

 時折、隣に座る新郎が腰や膝を、それも付け根の辺りを撫でてきて困るのだ。

 足元まで隠してくれる長いテーブルクロスのおかげで、テーブルの下で繰り広げられている様子は周りには見えないけれど、イチャイチャしていると気付かれはいないか気になってしまい、せっかくの食事の味が半減してしまう。
 今は我慢して欲しい、との思いを込めて私は眉尻を下げシルヴァリスを見る。

 訴えに気付いた筈の彼は、ニヤリと笑ってから理子の耳元へ唇を寄せた。

「仕方無かろう。二日だ。二日間、お前に触れられなかったのだ」

 耳にかかる息が擽ったくて、理子は目を細める。

「ん……」

 耳元から唇が離れる際に、頬を人差し指で撫でられて、ゾクリッと腰が震えた。

(これって、まさか)

 この感覚は緊張感とは違う。意識していないのに、ドキドキと胸が早鐘を打つ。

(もしかしなくても、彼は欲情しているの?)

 目を丸くして隣のシルヴァリスは見やれば、彼は肯定的な笑みを浮かべていた。

 理子と魔王シルヴァリスは、体を繋げて体液の交換をしてから伴侶? 番? の契約が結ばれている。そのせいで、お互いの魂が繋がっているらしい。
 平常時大丈夫だが、お互いの感情が高ぶればそれを共有してしまう。
 知った時は、衝撃が強すぎて倒れかけた。

 じわりじわり、沸き上がってくる情欲を抑え込むために私は下半身に力を込める。

「も、もう少しでデザートが運ばれて来ます、から……デザートはゆっくり食べさせて」

 披露宴会場の装飾と料理メニューを考えてくれたアルマイヤ公爵の孫娘オデリアから、とっておきのデザートを用意したと言われ、ずっと楽しみにしていたデザートを食べられないなんて悲しすぎる。


 華やかで鮮やかな色彩、ホワイトチョコを使用した美味しそうなデザートが運ばれてきた時は、理子は息苦しさに涙目になっていた。

「大丈夫か?」

 体調不良の、ほぼ原因となっている魔王が平然としているのは腹がたって、理子はキッと彼を睨む。

 下半身を中心とした疼きは強まる一方で、上気して火照る顔と体を周りに気付かれないようにするのは、もう限界を迎えていた。

(もう、無理っ)

 太股を撫でる大きな手の甲を握って、理子はシルヴァリスに“限界”を訴えた。

「くくっ、これで義務は果たしたな」

 俯いた理子の腰に回された腕が擦れただけで、欲情した体は小刻みに揺れてしまった。
 シルヴァリスが向けた視線に気付いたアルマイヤ公爵は、音も無く椅子を立つと傍へと寄る。

「アルマイヤ、花嫁が疲れて気分が悪いようだ。そろそろ下がらせてもらう」
「畏まりました。リコ様、ゆっくりと休んでください」

 やわらかな微笑で労られると、理子の胸は罪悪感で痛む。
 席へと戻ったアルマイヤ公爵から新郎新婦が退席する旨を伝えられ、理子とシルヴァリスに招待客からの拍手が送られた。



 披露宴会場から人の気配がほとんど無い廊下へ出る。
 途端に、緊張感から解放された理子の膝は震えだし、傾ぐ体をシルヴァリスの腕が支えた。

 片腕で理子を支えたシルヴァリスを上目遣いで見れば、熱のこもった視線と口付けが降ってくる。
 ちゅくちゅく、無人の廊下に舌を絡ませて合う水音が響く。
 まだ、まだ足りない。
 どれだけ舌を絡ませても、口腔内を味わっても、足りないのだ。
 口付けだけでは欲情した体の渇きは潤せない。

「はぁ……シルヴァリス様」

 ウェディングドレスを着ていても問題無いらしく、シルヴァリスは軽い動作で理子を横抱きにする。

「このまま部屋へ行くぞ」

 艶を含んだ低い声で囁かれ、この後の蜜夜への期待で体の奥が疼いて熱を持つ。

「部屋へ行ったらお風呂に入りたい……」

 綺麗だけど重たくて動きにくいドレスを脱いで、プロのメイクさんに施された結婚式仕様の化粧だけでも落としたい。

「たまには共に入るのもよいな」
「へ? えぇっ!?」

 蕩けた思考は急激に冷え、口を開けたままシルヴァリスを見詰めてしまった。

「今宵は、新婚初夜なのだから恥じらいは不要だ」
「えっと、その……」

 散々体を重ねているし、お互いの裸は余すとこ無く見たり見られているが、一緒にお風呂に入るのは恥ずかしくて返答に困った理子はもごもごと口ごもる。

「リコ、よいな?」

 二度、耳元へ蠱惑的な甘い声を注ぎ込まれ、ゾクゾクと肌が粟立つのを感じて、理子はシルヴァリスにしがみつく。

「……はい」

 顔を上気させて頷く理子の唇を軽く啄み、シルヴァリスは瞬く間に転移陣を発動した。
 此方の世界では、魔法を使わないようにするという約束だったのに、堂々と転移陣を使うくらい余裕が無い姿が愛しくて、理子は彼の首に腕を絡めた。
 愛しい魔王の熱が欲しくて堪らなかったのは、たった二日間とはいえ逢えないのが寂しかったのは、一緒なのだから。
 
「シルヴァリス様、愛してます」


 こうして、この世界での新婚初夜は、魔王にとことん愛されて更けていきました。
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