くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
意識が逸れていた理子の額に、シルヴァリスの冷たい唇が触れる。
「彼方から戻って来てから妙によそよそしいが、何か言いたいことでもあるのか?」
よそよそしい態度、と言われて理子はドキッと肩を揺らした。
「えっと、シルヴァリス様は甘いものは好きじゃ無いんですよね?」
「甘いもの? 甘ったるい菓子やクリーム類は好かぬ。食べたいとも思わぬ。だが、それがどうかしたのか?」
(やっぱりー!)
理子の気分は一気に急降下する。
よく考えたら、シルヴァリスが甘いものを食べているのは見たことは無かった。
「……いえ、自分の選択ミスを悔やんでいるだけです」
甘いものは好きじゃないのかも? と気付いたのは、香織宅でトリュフを作り終わった後。
バレンタインチョコを手作りするなんて、学生の時以来だったから香織と二人盛り上がってしまって気付くのが遅れた。
仕方がない。今回は自分で食べるか、迷惑料代わりにキルビスにあげよう。
次は、嗜好を把握してから渡すものを考えなければ。
ちゅっ、首筋に口づけを落とされて、理子は擽ったさに身震いする。
「リコ。お前の体から甘い匂いがするのは何故だ?」
首筋から顔を話したシルヴァリスに問われて、理子は眉尻を下げつつペティコートとドレスの隙間に隠していた、可愛らしくラッピングされた箱を取り出した。
「……これを持っていたから。私の国では、好きな人やお世話になっている人に贈り物をする特別な日があるんです。贈り物も色々ですが、主にチョコレートが多くて。その、シルヴァリス様に食べて貰いたくて作ったのですが、好きじゃないのなら違うものにすればよかったかなって思ったら、軽く落ち込んできて。誰かにあげるか自分で食べます」
嫌いな物を贈られるなど嫌がらせにしかならない。
嫌われたか、こんな程度で落ち込むのかと呆れられたかな、と理子は俯いてしまった。
「寄越せ」
短く言うと同時に、伸びてきたシルヴァリスの手がチョコ入りの箱を奪い取る。
「き、嫌いな物を食べて、お腹が痛くなっても知りませんよ」
驚く理子の言葉を無視して、シルヴァリスは箱のラッピングを解いて蓋を開ける。
「俺は、そんなに弱くはない」
粉糖をまぶしたトリュフを一つ口内へ放り込むと、きょとんとする理子の唇に自らの唇を重ねた。
咄嗟の事で意味がわからず固く唇を閉ざしていると、僅かに唇を離したシルヴァリスは低く呟いた。
「口を開け」
何時もより低くて色気を含んだ声で命じられて、逆らえずに理子は唇を緩く開いた。
間髪入れず、シルヴァリスの唇が噛み付くように重ねられ、生暖かい舌が咥内へと入り込んだ。
「んんっ」
舌と舌が触れ合い、ちゅくちゅく音を立てて絡まり合う。
口内の熱で溶けたトリュフが、トロリと互いの舌にチョコレートの甘みを伝えていく。
口内に広がる甘いチョコレート味の唾液は、どちらのものか分からない程混ざり合い、ごくりと飲み込めばほんのりと洋酒を混ぜたトリュフの甘い味がした。
「はっ……」
口内の唾液を飲み干したのを確認して、シルヴァリスは捕らえていた理子の舌を解放した。
「甘い、な」
舌と舌を繋ぐ色付いた唾液を器用に舐めとると、肩で息をする私に向かってシルヴァリスは広角を上げた。
「だが、こうすれば食える」
至極愉しそうに言うシルヴァリスは、見惚れるくらい綺麗で唇を舐める仕草がすごい、厭らしい。
すっかり思考が蕩けてしまった私に、情欲を含んだ視線を向けたまま、彼は二度、トリュフを一つ摘まむんで口に放るのだった。
***
テーブルの上に並べられた図面と、目の前に居る渋面のキルビスの顔を理子は見比べてしまった。
「ーで、おおよその感じでいいので、この中からリコ様がお好きな薔薇園のイメージを教えてください」
「何故、ですか?」
事前連絡無しに、訪ねて来たキルビスの意図が分からず戸惑う理子に、彼は片眉を器用に上げる。
「先日、何故か、薔薇園の青薔薇の半数が、深紅の薔薇に変わってしまいましてねぇ……この際だから、と魔王様が、薔薇園を造り変えることに決めやがったんですよ」
何故か、を強調し台詞を区切って言うキルビスは、明らかに急に増やされた仕事に苛立ちを感じているらしく、垂れ目な目元が珍しく吊り上げっていた。
「へー、それって……魔力の干渉によって色が変わったの?あれ?」
以前、シルヴァリスが薔薇園の薔薇は与える魔力によって花弁の色が変わると、言っていたっけ。
「ええ、先代魔王の魔力に匹敵する強大な魔力でなければ、青薔薇の色を塗り替えるなど出来ない筈なのですが、どうして深紅になったのでしょうねぇ」
「あっ……」
口元だけの笑みを浮かべるキルビスの目は全く笑ってはいない。
彼が言いたい事が分かり真っ赤になってしまった。
口移しでトリュフを食べさせ合うという、イチャイチャカップルも真っ青な事をした後、勢いに任せて私達は致してしまったのだ。
青薔薇の半数を深紅の色に変えるくらい、盛り上がって魔力を撒き散らした理由は、座ったままで……外なのに。
「外でヤルのも、まぁ自由ですが、イチャイチャもほどほどにしてくださいね。王妃様」
嫌味が混じったキルビスの言葉が耳に入らないくらい、理子は茹で蛸のように真っ赤になってテーブルに突っ伏した。
薔薇園でナニしていたか皆にバレバレじゃないか。
(穴があったら入っていたい……)
キルビスに声をかけられるまで、理子は顔を上げられなかった。
「彼方から戻って来てから妙によそよそしいが、何か言いたいことでもあるのか?」
よそよそしい態度、と言われて理子はドキッと肩を揺らした。
「えっと、シルヴァリス様は甘いものは好きじゃ無いんですよね?」
「甘いもの? 甘ったるい菓子やクリーム類は好かぬ。食べたいとも思わぬ。だが、それがどうかしたのか?」
(やっぱりー!)
理子の気分は一気に急降下する。
よく考えたら、シルヴァリスが甘いものを食べているのは見たことは無かった。
「……いえ、自分の選択ミスを悔やんでいるだけです」
甘いものは好きじゃないのかも? と気付いたのは、香織宅でトリュフを作り終わった後。
バレンタインチョコを手作りするなんて、学生の時以来だったから香織と二人盛り上がってしまって気付くのが遅れた。
仕方がない。今回は自分で食べるか、迷惑料代わりにキルビスにあげよう。
次は、嗜好を把握してから渡すものを考えなければ。
ちゅっ、首筋に口づけを落とされて、理子は擽ったさに身震いする。
「リコ。お前の体から甘い匂いがするのは何故だ?」
首筋から顔を話したシルヴァリスに問われて、理子は眉尻を下げつつペティコートとドレスの隙間に隠していた、可愛らしくラッピングされた箱を取り出した。
「……これを持っていたから。私の国では、好きな人やお世話になっている人に贈り物をする特別な日があるんです。贈り物も色々ですが、主にチョコレートが多くて。その、シルヴァリス様に食べて貰いたくて作ったのですが、好きじゃないのなら違うものにすればよかったかなって思ったら、軽く落ち込んできて。誰かにあげるか自分で食べます」
嫌いな物を贈られるなど嫌がらせにしかならない。
嫌われたか、こんな程度で落ち込むのかと呆れられたかな、と理子は俯いてしまった。
「寄越せ」
短く言うと同時に、伸びてきたシルヴァリスの手がチョコ入りの箱を奪い取る。
「き、嫌いな物を食べて、お腹が痛くなっても知りませんよ」
驚く理子の言葉を無視して、シルヴァリスは箱のラッピングを解いて蓋を開ける。
「俺は、そんなに弱くはない」
粉糖をまぶしたトリュフを一つ口内へ放り込むと、きょとんとする理子の唇に自らの唇を重ねた。
咄嗟の事で意味がわからず固く唇を閉ざしていると、僅かに唇を離したシルヴァリスは低く呟いた。
「口を開け」
何時もより低くて色気を含んだ声で命じられて、逆らえずに理子は唇を緩く開いた。
間髪入れず、シルヴァリスの唇が噛み付くように重ねられ、生暖かい舌が咥内へと入り込んだ。
「んんっ」
舌と舌が触れ合い、ちゅくちゅく音を立てて絡まり合う。
口内の熱で溶けたトリュフが、トロリと互いの舌にチョコレートの甘みを伝えていく。
口内に広がる甘いチョコレート味の唾液は、どちらのものか分からない程混ざり合い、ごくりと飲み込めばほんのりと洋酒を混ぜたトリュフの甘い味がした。
「はっ……」
口内の唾液を飲み干したのを確認して、シルヴァリスは捕らえていた理子の舌を解放した。
「甘い、な」
舌と舌を繋ぐ色付いた唾液を器用に舐めとると、肩で息をする私に向かってシルヴァリスは広角を上げた。
「だが、こうすれば食える」
至極愉しそうに言うシルヴァリスは、見惚れるくらい綺麗で唇を舐める仕草がすごい、厭らしい。
すっかり思考が蕩けてしまった私に、情欲を含んだ視線を向けたまま、彼は二度、トリュフを一つ摘まむんで口に放るのだった。
***
テーブルの上に並べられた図面と、目の前に居る渋面のキルビスの顔を理子は見比べてしまった。
「ーで、おおよその感じでいいので、この中からリコ様がお好きな薔薇園のイメージを教えてください」
「何故、ですか?」
事前連絡無しに、訪ねて来たキルビスの意図が分からず戸惑う理子に、彼は片眉を器用に上げる。
「先日、何故か、薔薇園の青薔薇の半数が、深紅の薔薇に変わってしまいましてねぇ……この際だから、と魔王様が、薔薇園を造り変えることに決めやがったんですよ」
何故か、を強調し台詞を区切って言うキルビスは、明らかに急に増やされた仕事に苛立ちを感じているらしく、垂れ目な目元が珍しく吊り上げっていた。
「へー、それって……魔力の干渉によって色が変わったの?あれ?」
以前、シルヴァリスが薔薇園の薔薇は与える魔力によって花弁の色が変わると、言っていたっけ。
「ええ、先代魔王の魔力に匹敵する強大な魔力でなければ、青薔薇の色を塗り替えるなど出来ない筈なのですが、どうして深紅になったのでしょうねぇ」
「あっ……」
口元だけの笑みを浮かべるキルビスの目は全く笑ってはいない。
彼が言いたい事が分かり真っ赤になってしまった。
口移しでトリュフを食べさせ合うという、イチャイチャカップルも真っ青な事をした後、勢いに任せて私達は致してしまったのだ。
青薔薇の半数を深紅の色に変えるくらい、盛り上がって魔力を撒き散らした理由は、座ったままで……外なのに。
「外でヤルのも、まぁ自由ですが、イチャイチャもほどほどにしてくださいね。王妃様」
嫌味が混じったキルビスの言葉が耳に入らないくらい、理子は茹で蛸のように真っ赤になってテーブルに突っ伏した。
薔薇園でナニしていたか皆にバレバレじゃないか。
(穴があったら入っていたい……)
キルビスに声をかけられるまで、理子は顔を上げられなかった。