くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
既に時計は夜二十二時近く。
自分以外の社員は退社している中、理子のデスクの上だけがパソコンと書類が乗っている。
押し付けられた仕事は大量で、後輩は今日一日何をやっていたのかと、問い詰めたくなるくらいの量だった。
この量では、ぎりぎり今日中に終わればいい方だ。これでは終電はもちろん、魔王との会話の時間には間に合わない。
明日の会話で、また「我の国へ来い」と言われるかな、と理子は苦笑を浮かべた。
はぁーと溜め息を吐けば、じんわりと視界いっぱいに涙の膜が張っていく。
(こんなことで泣くな、わたし)
ぎりっと奥歯を噛み締めて涙が溢れ落ちるのを堪える。
今泣いたら、必死で保っているちっぽけな矜持が崩れてしまう。
きつく目を瞑った理子の耳に、ひび割れた笑い声が聞こえた気がした。
クリーム色の靄が立ち込める空間で、理子は両耳に手のひらを当てて俯いていた。
不快な生暖かい風が理子の体にまとわりついて離れない。
『もっとだ』
風音と一緒に、ひび割れた女の声が耳の中へと流し込まれる。
両手で耳を覆っているのに、女の声はまるで呪詛のように脳へと直接響く。
『もっと絶望しろ』
「やめて!」そう叫んだ理子の声は、唇は動くのに音にはならない。
『絶望に染まり、泣いて、泣いてあの方に縋り付けばいいさ。あの方が少しでもお前に手を差し伸べれば……ククククッ』
クリーム色の靄の隙間から姿を現したのは、黒色のローブを纏い頭から被ったフードによって顔の半分を隠した深紅の長い髪の女。
息をのむ理子に向かって、女は真っ赤な唇の端を笑みの形に吊り上げた。
連日の残業による睡眠不足からくる頭痛以外に、出勤時からずっと治まる事は無く、理子の胃は刺すような痛みを訴える。
(まずい、このままでは倒れるか吐く)
トイレから戻って来た理子は、嫌味を言われるのを覚悟して、今日は早退させてもらおうと上司の席へと向かった。
上司の席に側に同僚の男性二人と上司、それに高木さんが集まって談笑している。
無駄話していないで仕事してください。とは、言いたくても言えない。
近くの席に座って仕事をしている同僚の女性は、迷惑そうに眉間に皺を寄せていた。
「いやーこの資料、要点が分かりやすかったしレイアウトも見やすいですよ」
そう言いながら、同僚の男性は手に持つ会議用資料を捲る。
聞こえてきた感想に、理子はホッと胸を撫で下ろした。
昨夜、ほとんど寝ないで作成した資料は誤字や変な箇所は無かったみたいだ。
だが、続く上司の言葉に理子は呆然となってしまった。
「高木さんが、短時間なのに頑張って作ってくれたから助かった」
上司が言っていることが理解出来ず、足を止めた理子は何度か目を瞬かせた。
昨日の夕方、自分に資料作成を命じたのは上司じゃないか。
この資料を作成したのは、高木さんではないと上司は知っているのに。
「へー高木さん一人で作ったんだ! 将来有望新人じゃないですか!」
「え~本当ですかぁ? ありがとうございますー次も頑張りまぁす」
口元に手を当てて、嬉しそうに高木さんは固まったままの理子を見る。
(高木さんは何を言っているの? 全て私が作ったというのに)
理子の体から熱が奪われていき、自分の体じゃなくなる様な気持ちの悪い感覚に襲われた。
昨日の、上司と高木さんと理子のやり取りを見聞きしている筈の周りの同僚達は何も言わない。
傍観者達が何も知らない振りを決め込んでいる状態では、上司の手に資料のデータが渡ってしまった以上、今更理子が何を言っても無駄なのだ。
上司が仕事を押し付けた物的証拠はないのだから、今の理子は泣き寝入りするしかなかった。
自分以外の社員は退社している中、理子のデスクの上だけがパソコンと書類が乗っている。
押し付けられた仕事は大量で、後輩は今日一日何をやっていたのかと、問い詰めたくなるくらいの量だった。
この量では、ぎりぎり今日中に終わればいい方だ。これでは終電はもちろん、魔王との会話の時間には間に合わない。
明日の会話で、また「我の国へ来い」と言われるかな、と理子は苦笑を浮かべた。
はぁーと溜め息を吐けば、じんわりと視界いっぱいに涙の膜が張っていく。
(こんなことで泣くな、わたし)
ぎりっと奥歯を噛み締めて涙が溢れ落ちるのを堪える。
今泣いたら、必死で保っているちっぽけな矜持が崩れてしまう。
きつく目を瞑った理子の耳に、ひび割れた笑い声が聞こえた気がした。
クリーム色の靄が立ち込める空間で、理子は両耳に手のひらを当てて俯いていた。
不快な生暖かい風が理子の体にまとわりついて離れない。
『もっとだ』
風音と一緒に、ひび割れた女の声が耳の中へと流し込まれる。
両手で耳を覆っているのに、女の声はまるで呪詛のように脳へと直接響く。
『もっと絶望しろ』
「やめて!」そう叫んだ理子の声は、唇は動くのに音にはならない。
『絶望に染まり、泣いて、泣いてあの方に縋り付けばいいさ。あの方が少しでもお前に手を差し伸べれば……ククククッ』
クリーム色の靄の隙間から姿を現したのは、黒色のローブを纏い頭から被ったフードによって顔の半分を隠した深紅の長い髪の女。
息をのむ理子に向かって、女は真っ赤な唇の端を笑みの形に吊り上げた。
連日の残業による睡眠不足からくる頭痛以外に、出勤時からずっと治まる事は無く、理子の胃は刺すような痛みを訴える。
(まずい、このままでは倒れるか吐く)
トイレから戻って来た理子は、嫌味を言われるのを覚悟して、今日は早退させてもらおうと上司の席へと向かった。
上司の席に側に同僚の男性二人と上司、それに高木さんが集まって談笑している。
無駄話していないで仕事してください。とは、言いたくても言えない。
近くの席に座って仕事をしている同僚の女性は、迷惑そうに眉間に皺を寄せていた。
「いやーこの資料、要点が分かりやすかったしレイアウトも見やすいですよ」
そう言いながら、同僚の男性は手に持つ会議用資料を捲る。
聞こえてきた感想に、理子はホッと胸を撫で下ろした。
昨夜、ほとんど寝ないで作成した資料は誤字や変な箇所は無かったみたいだ。
だが、続く上司の言葉に理子は呆然となってしまった。
「高木さんが、短時間なのに頑張って作ってくれたから助かった」
上司が言っていることが理解出来ず、足を止めた理子は何度か目を瞬かせた。
昨日の夕方、自分に資料作成を命じたのは上司じゃないか。
この資料を作成したのは、高木さんではないと上司は知っているのに。
「へー高木さん一人で作ったんだ! 将来有望新人じゃないですか!」
「え~本当ですかぁ? ありがとうございますー次も頑張りまぁす」
口元に手を当てて、嬉しそうに高木さんは固まったままの理子を見る。
(高木さんは何を言っているの? 全て私が作ったというのに)
理子の体から熱が奪われていき、自分の体じゃなくなる様な気持ちの悪い感覚に襲われた。
昨日の、上司と高木さんと理子のやり取りを見聞きしている筈の周りの同僚達は何も言わない。
傍観者達が何も知らない振りを決め込んでいる状態では、上司の手に資料のデータが渡ってしまった以上、今更理子が何を言っても無駄なのだ。
上司が仕事を押し付けた物的証拠はないのだから、今の理子は泣き寝入りするしかなかった。