くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
「……は?」
此処はどこだろうと、首を動かした理子はビシッと固まってしまった。
薄暗い空間の中でも刃物の如く鋭い光を放つ銀髪と血のように赤い瞳、青白い燭台の明かりに照らされている白磁の肌。
生まれてから生きてきた二十四年間で、見たことがない程綺麗で幻想的な男性がベッドサイドに立っていたのだ。
無言のまま理子をじっと見詰める男性と目が合った瞬間、背中がざわりと泡立つ。
とんでもなく綺麗なその人は、襟に銀糸で模様が縫い込まれている黒いバスローブのような寝間着を着ていて、寝間着の合わせから見える白い胸元に理子の心臓は早鐘を打ちだした。
「あの、」
西洋人に近い系統の外見ながら、彼から醸し出している妖しい色気にくらくらする。
人間離れしている美貌とはこういうことか。
天蓋付の広いベッド、装飾も豪華な家具が置かれた此処は、もしかしなくても男性の寝室なのだろう。
「貴方は、どなた、ですか?」
恐る恐る口を開けば、男性は僅かに笑う。
「我とは先程まで話していただろうが」
男性の声を聞いて、理子は大きく目を見開いた。
「魔王、さま?」
「ああ」
頷く男性の声は確かに聞き覚えのある、低い、耳に心地よく響く理子の好きな声だった。
何で魔王の処へ? と、ポカンと口を開けた理子は、思わず上半身を仰け反らせて彼を見上げてしまった。
何故ならば、彼には予想に反して鱗も尻尾も無かったから。
「トカゲじゃない」
「トカゲ?」
男性、もとい魔王の整った眉がぴくりと動き、僅かに口角が上がった。
「どんな豪胆な女が現れるかと楽しみにしていたが」
魔王の白くて長い指が伸びてきて、固まる理子の顎を掴む。
「まるで小動物だな」
「小動物?」
小動物ってどんな例えなのか。
無表情で告げる魔王を、理子は困惑しつつ見上げた。
顎を掴まれたままなのを、これ幸いと理子はじっくり魔王を観察する。
近くで見れば見るほど、彼はとんでもなく綺麗な男性だった。そうして気が付いた。
「角がない」
魔王の頭部には、燐光を放つ銀髪しか見当たらず、角らしきものは生えて無い。
「羽根もないし」
背中は位置的に見えないが、羽根や突起物の様なものは生えて無いようだ。
「……お前は何を期待していたのだ」
顎から指を離した魔王が呆れた目で理子を見下ろす。
口を開きかけた理子は、そこでやっと今の自分の姿を思い出して、一気に頬に熱が集中した。
「み、見ないで!」
慌てて横を向いて、魔王の視線から顔を背ける。
「ひどい顔になっているから!」
忘れていたが、散々泣いた後だった。
両目蓋は泣いたせいで腫れぼったいし、強く擦った鼻は真っ赤になっている。
髪もぐしゃぐしゃ、服も仕事から帰ってきたままのブラウスにスカートという状態だった。
「確かにひどい有り様だな」
顔を背けて見せないようにする理子に、魔王はうっとりするくらい綺麗な笑みを向ける。
「だが、我には可愛らしく見える」
吃驚して顔を上げた理子の目元から鼻にかけてを、魔王の大きな手のひらが覆う。
(冷たくて、気持ちがいい……)
彼の低めの体温が手のひらから伝わって来て、その心地良さに理子の浮腫んだ目蓋が重みを増す。
まだまだこの綺麗なお姿を堪能したいのに、理子の意識は急速に闇へと沈んでいった。
此処はどこだろうと、首を動かした理子はビシッと固まってしまった。
薄暗い空間の中でも刃物の如く鋭い光を放つ銀髪と血のように赤い瞳、青白い燭台の明かりに照らされている白磁の肌。
生まれてから生きてきた二十四年間で、見たことがない程綺麗で幻想的な男性がベッドサイドに立っていたのだ。
無言のまま理子をじっと見詰める男性と目が合った瞬間、背中がざわりと泡立つ。
とんでもなく綺麗なその人は、襟に銀糸で模様が縫い込まれている黒いバスローブのような寝間着を着ていて、寝間着の合わせから見える白い胸元に理子の心臓は早鐘を打ちだした。
「あの、」
西洋人に近い系統の外見ながら、彼から醸し出している妖しい色気にくらくらする。
人間離れしている美貌とはこういうことか。
天蓋付の広いベッド、装飾も豪華な家具が置かれた此処は、もしかしなくても男性の寝室なのだろう。
「貴方は、どなた、ですか?」
恐る恐る口を開けば、男性は僅かに笑う。
「我とは先程まで話していただろうが」
男性の声を聞いて、理子は大きく目を見開いた。
「魔王、さま?」
「ああ」
頷く男性の声は確かに聞き覚えのある、低い、耳に心地よく響く理子の好きな声だった。
何で魔王の処へ? と、ポカンと口を開けた理子は、思わず上半身を仰け反らせて彼を見上げてしまった。
何故ならば、彼には予想に反して鱗も尻尾も無かったから。
「トカゲじゃない」
「トカゲ?」
男性、もとい魔王の整った眉がぴくりと動き、僅かに口角が上がった。
「どんな豪胆な女が現れるかと楽しみにしていたが」
魔王の白くて長い指が伸びてきて、固まる理子の顎を掴む。
「まるで小動物だな」
「小動物?」
小動物ってどんな例えなのか。
無表情で告げる魔王を、理子は困惑しつつ見上げた。
顎を掴まれたままなのを、これ幸いと理子はじっくり魔王を観察する。
近くで見れば見るほど、彼はとんでもなく綺麗な男性だった。そうして気が付いた。
「角がない」
魔王の頭部には、燐光を放つ銀髪しか見当たらず、角らしきものは生えて無い。
「羽根もないし」
背中は位置的に見えないが、羽根や突起物の様なものは生えて無いようだ。
「……お前は何を期待していたのだ」
顎から指を離した魔王が呆れた目で理子を見下ろす。
口を開きかけた理子は、そこでやっと今の自分の姿を思い出して、一気に頬に熱が集中した。
「み、見ないで!」
慌てて横を向いて、魔王の視線から顔を背ける。
「ひどい顔になっているから!」
忘れていたが、散々泣いた後だった。
両目蓋は泣いたせいで腫れぼったいし、強く擦った鼻は真っ赤になっている。
髪もぐしゃぐしゃ、服も仕事から帰ってきたままのブラウスにスカートという状態だった。
「確かにひどい有り様だな」
顔を背けて見せないようにする理子に、魔王はうっとりするくらい綺麗な笑みを向ける。
「だが、我には可愛らしく見える」
吃驚して顔を上げた理子の目元から鼻にかけてを、魔王の大きな手のひらが覆う。
(冷たくて、気持ちがいい……)
彼の低めの体温が手のひらから伝わって来て、その心地良さに理子の浮腫んだ目蓋が重みを増す。
まだまだこの綺麗なお姿を堪能したいのに、理子の意識は急速に闇へと沈んでいった。