くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
急速に意識を失い、傾ぐ理子の体を魔王は腕を伸ばして受け止めた。
そのまま理子を抱き上げると、ベッドへ彼女を横たえる。
艶やかな黒髪を一撫でしてから、魔王はベッドから降りた。
「さて……出てこい」
底冷えする低い声で、魔王は自分の許可無くやって来た侵入者へ命じる。
相手を射殺せそうなくらい冷たい視線を向ければ、ビシリッと音を立てて寝室の壁に大きな亀裂が走った。
「出てこぬならば、引きずり出すが?」
声に呼応するように、壁が波打ち渦を巻く。
渦の中心から黒い靄が生じ、魔王の前に集まると靄は人型を形どっていく。
靄の黒が濃くなり、現れたのは黒色のローブを纏った美しい女。
毛先がウェーブした腰より長い朱色の髪、濡れたような光を放つ濃紺の瞳の女は、蠱惑的な笑みを魔王へ向けた。
「悪魔喰いの魔女か」
姿を確認して瞬時に女の正体を見破った魔王に、魔女は黒色のローブの下に着た黒色のワンピースを摘まむと淑女の礼をとった。
魔女が動く度に、両手首に巻かれた金の鎖がシャラシャラ音をたてる。
「如何にも。お初にお目にかかります魔王陛下」
空気を凍てつかせる圧を放つ魔王を、朱い魔女はうっとりと見上げた。
《魔女の話》
百五十年程前の話である。
悪魔喰いの魔女と呼ばれた魔女は、生まれながらにして強い魔力を持っていた。
それ故に、娘を出産すると同時に母親は命を落としてしまい、とある王国の、王族お抱え魔女に後継者として引き取られた。
国の外れにある深き森の中腹、古びた館が魔女の住まい、幼い頃の魔女が自由に動ける世界だった。
十歳になる頃には師匠である先代の魔女の魔力量を超えており、師匠との生活は退屈なものとなっていた魔女は、森の外へ出たいと考える。
強い好奇心を持つ彼女には、ひっそりと森で暮らしていく事は堪えられなかったのだ。
ある日、勝手に入った師匠の書斎で厳重に封をしてある悪魔召喚の本を見付けた。
強い魔力を持つ魔女にとって、封を解除するのは簡単である。
本を開いた魔女は、興味本意で悪魔を召喚してしまう。それは、召喚した者の願いを叶えるが、願いの代償に魂を喰らう悪魔。
魔女が悪魔に願ったのは、絶世の美貌だった。様々な書物から得た知識で、彼女は絶世の美貌と魅了の力があれば、権力を持つ男達を跪かせることが出来ると考えていたからだ。
絶世の美貌を手に入れた魔女は、用意していた退魔の魔方陣を発動させる。
魔方陣により力を弱体化した悪魔を捩じ伏せ、悪魔の力を喰らったのだ。
悪魔の力を得た魔女は、自分の邪魔となる師匠を殺し師匠の魔力と知識を奪うと、闇より召喚した魔物を近隣の街へと放った。
その後、師匠に成り代わり、城へ召集された魔女は王の依頼を受け、人々を襲う魔物を一掃した。
国を救った英雄となった魔女は、王に近づき魅了の魔法を使う。
美貌と魔力で骨抜きにされた王は、魔女を側妃として迎え入れ、常に傍らへおいた。
王を傀儡とした魔女は、国を意のままに操り出す。
僅か一年で、魔女が贅沢な品を求め続けた国の財政は逼迫し、王を諫める王妃は処刑された。
ついには隣国の国宝をも欲しい、と魔女は王へねだり出す始末。
……このままでは隣国と戦争になる。
若き王子と宰相は国の行く末を憂い、王を暗殺し、魔女と戦うことを決意する。
強大な魔力を有する魔女を確実に屠るため、王子は秘密裏に魔国の王である魔王へ協力を仰いだ。
魔王より魔女の魔力を封印する鎖を譲り受けた王子は、王と閨を共にする魔女を襲撃する形で彼女の魔力を封じ込める事に成功する。
そうして魔女は縛され、魔石に封じられた筈だった。
何者かが、王国の宝物庫を荒らすまでは。
宝物庫から持ち出された魔石は、封印の力が弱まったため魔女の意識が甦ってしまった。
意識はあっても肉体は朽ち果て、魔力は封じられている。
封印を解くための策を魔女は考えた。
そして、喰らった悪魔の力を利用することを思い付く。
人の願いを叶え、魂を奪い己の力とする悪魔の力。
長い月日を経て、魔女が封じられた魔石は人の間を渡り歩き、異世界へと流れ着いた。
巡りめぐって魔石は香織から理子へと辿り着いたのだった。
そのまま理子を抱き上げると、ベッドへ彼女を横たえる。
艶やかな黒髪を一撫でしてから、魔王はベッドから降りた。
「さて……出てこい」
底冷えする低い声で、魔王は自分の許可無くやって来た侵入者へ命じる。
相手を射殺せそうなくらい冷たい視線を向ければ、ビシリッと音を立てて寝室の壁に大きな亀裂が走った。
「出てこぬならば、引きずり出すが?」
声に呼応するように、壁が波打ち渦を巻く。
渦の中心から黒い靄が生じ、魔王の前に集まると靄は人型を形どっていく。
靄の黒が濃くなり、現れたのは黒色のローブを纏った美しい女。
毛先がウェーブした腰より長い朱色の髪、濡れたような光を放つ濃紺の瞳の女は、蠱惑的な笑みを魔王へ向けた。
「悪魔喰いの魔女か」
姿を確認して瞬時に女の正体を見破った魔王に、魔女は黒色のローブの下に着た黒色のワンピースを摘まむと淑女の礼をとった。
魔女が動く度に、両手首に巻かれた金の鎖がシャラシャラ音をたてる。
「如何にも。お初にお目にかかります魔王陛下」
空気を凍てつかせる圧を放つ魔王を、朱い魔女はうっとりと見上げた。
《魔女の話》
百五十年程前の話である。
悪魔喰いの魔女と呼ばれた魔女は、生まれながらにして強い魔力を持っていた。
それ故に、娘を出産すると同時に母親は命を落としてしまい、とある王国の、王族お抱え魔女に後継者として引き取られた。
国の外れにある深き森の中腹、古びた館が魔女の住まい、幼い頃の魔女が自由に動ける世界だった。
十歳になる頃には師匠である先代の魔女の魔力量を超えており、師匠との生活は退屈なものとなっていた魔女は、森の外へ出たいと考える。
強い好奇心を持つ彼女には、ひっそりと森で暮らしていく事は堪えられなかったのだ。
ある日、勝手に入った師匠の書斎で厳重に封をしてある悪魔召喚の本を見付けた。
強い魔力を持つ魔女にとって、封を解除するのは簡単である。
本を開いた魔女は、興味本意で悪魔を召喚してしまう。それは、召喚した者の願いを叶えるが、願いの代償に魂を喰らう悪魔。
魔女が悪魔に願ったのは、絶世の美貌だった。様々な書物から得た知識で、彼女は絶世の美貌と魅了の力があれば、権力を持つ男達を跪かせることが出来ると考えていたからだ。
絶世の美貌を手に入れた魔女は、用意していた退魔の魔方陣を発動させる。
魔方陣により力を弱体化した悪魔を捩じ伏せ、悪魔の力を喰らったのだ。
悪魔の力を得た魔女は、自分の邪魔となる師匠を殺し師匠の魔力と知識を奪うと、闇より召喚した魔物を近隣の街へと放った。
その後、師匠に成り代わり、城へ召集された魔女は王の依頼を受け、人々を襲う魔物を一掃した。
国を救った英雄となった魔女は、王に近づき魅了の魔法を使う。
美貌と魔力で骨抜きにされた王は、魔女を側妃として迎え入れ、常に傍らへおいた。
王を傀儡とした魔女は、国を意のままに操り出す。
僅か一年で、魔女が贅沢な品を求め続けた国の財政は逼迫し、王を諫める王妃は処刑された。
ついには隣国の国宝をも欲しい、と魔女は王へねだり出す始末。
……このままでは隣国と戦争になる。
若き王子と宰相は国の行く末を憂い、王を暗殺し、魔女と戦うことを決意する。
強大な魔力を有する魔女を確実に屠るため、王子は秘密裏に魔国の王である魔王へ協力を仰いだ。
魔王より魔女の魔力を封印する鎖を譲り受けた王子は、王と閨を共にする魔女を襲撃する形で彼女の魔力を封じ込める事に成功する。
そうして魔女は縛され、魔石に封じられた筈だった。
何者かが、王国の宝物庫を荒らすまでは。
宝物庫から持ち出された魔石は、封印の力が弱まったため魔女の意識が甦ってしまった。
意識はあっても肉体は朽ち果て、魔力は封じられている。
封印を解くための策を魔女は考えた。
そして、喰らった悪魔の力を利用することを思い付く。
人の願いを叶え、魂を奪い己の力とする悪魔の力。
長い月日を経て、魔女が封じられた魔石は人の間を渡り歩き、異世界へと流れ着いた。
巡りめぐって魔石は香織から理子へと辿り着いたのだった。