くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
髪を乾かし終わり、着替えをするために寝室へ向かった。
ベッドの上に置いてあるスマートフォンで時間を確認すると、何時も支度している時間より早い。
時間の余裕があるなら、朝食は通勤途中のカフェで食べればいいか。
カフェのモーニングセットを思い浮かべて、理子はにんまり笑う。
「あれ?」
タンスからブラウスを引っ張り出していた理子は、タンスの奥、隣室と自室を隔てている壁の異変に気付いて、大きく目を見開いた。
壁に貼っていた防音シートが半分以上剥がれていたのだ。
剥がれたシートの下には、白い壁紙が見え―……
「穴が、無い」
ベリッ!
ブラウスを放り投げて、勢い良く防音シートを全て剥がす。
防音シートの下には、傷ひとつ見当たらない白い壁があるのみで、タンスの角をぶつけて開いた穴は綺麗さっぱり消え失せていた。
「そっか……そうなのね」
この現象は何だろうと考えて、ある答えに行き着いた。
睡眠不足が続き、少々精神的にやられていた時に香織からもらった御守り。
穴が開いてから魔王の部屋と繋がり、夜勤のバイトを始めた鈴木君。
隣室からの騒音は無くなり、トカゲ姿と思っていた魔王に会えた。
隣人に関する理子の願いは叶った。
そこまで考えて、覚る。
願いは叶い、元通りの生活になった、魔王と繋がるという、非現実的でファンタジーな邂逅は終わったのだ。
急に足から力が抜けて、理子はタンスの前に置いてある座布団上へ座り込む。
元通りの生活、魔王との時間が無くなるだけなのにそれを寂しいと感じるなんて、おかしい。
元々、世界が違う。
偶然部屋の壁が繋がらなければ出会う事はなかったのだ。
この先、仕事を続けるか退職となってもいずれはこの部屋から引っ越す事となる。
この部屋から引っ越せば魔王との関わりは終わる、それが早まっただけ。
(昨夜でさよならなら、せめて「ありがとう」は伝えたかったな)
スマートフォンのアラームが鳴るまでの間、理子はぼんやりと穴が無くなった白い壁を見詰めていた。
たっぷり睡眠をとり、お気に入りのカフェでサンドイッチのモーニングセットも食べられた。
体調も気分も上向きになった理子は、駅のトイレで「仕事をするぞ!」と気合いを入れてから職場へ向かった。
「おはようございま、す?」
気合い十分で部署へ足を踏み入れた理子は、フロア全体に漂う不穏な空気に戸惑い、挨拶の声は尻つぼみになっていく。
自分の席へ向かう途中、一年先輩の男性社員山本さんにどうしたのか小声で問いかけた。
「今日、田島係長が急に休みをとったんだけど、連絡をしてきたのが奥さんかららしくね。朝から課長の態度も変だし、俺らには理由も話してくれないのも何か変だなってなってさ。俺もさ、係長に見てもらいたい物があるのに連絡つかないから困っているんだよ」
頭を掻く山本さんの目の下には、はっきりと隈が出来ていて彼も理子程では無いが、田島係長から仕事を押し付けられていた事を思い出した。
山本さんが仕事を押し付けられた理由は、歓迎会の後から後輩の高木さんが彼にあからさまな好意を示していたのと、外見性格共に爽やか好青年な山本さんは外見もスマートで格好良いため、係長としたら警戒しているのだろう。
既婚者が嫉妬するなどおかしな話でも、田島係長としたら不倫相手が興味を持つ相手は潰したいのか。
田島係長が休みならば山本さんも平和で過ごせるし、今日は定時に帰れそうだと理子は安堵の息を吐いた。
課内に漂う不穏な空気は解消されないまま、朝から姿を見せなかった課長が疲れた顔でフロアへやって来たのは始業時刻から二時間以上経った時だった。
ベッドの上に置いてあるスマートフォンで時間を確認すると、何時も支度している時間より早い。
時間の余裕があるなら、朝食は通勤途中のカフェで食べればいいか。
カフェのモーニングセットを思い浮かべて、理子はにんまり笑う。
「あれ?」
タンスからブラウスを引っ張り出していた理子は、タンスの奥、隣室と自室を隔てている壁の異変に気付いて、大きく目を見開いた。
壁に貼っていた防音シートが半分以上剥がれていたのだ。
剥がれたシートの下には、白い壁紙が見え―……
「穴が、無い」
ベリッ!
ブラウスを放り投げて、勢い良く防音シートを全て剥がす。
防音シートの下には、傷ひとつ見当たらない白い壁があるのみで、タンスの角をぶつけて開いた穴は綺麗さっぱり消え失せていた。
「そっか……そうなのね」
この現象は何だろうと考えて、ある答えに行き着いた。
睡眠不足が続き、少々精神的にやられていた時に香織からもらった御守り。
穴が開いてから魔王の部屋と繋がり、夜勤のバイトを始めた鈴木君。
隣室からの騒音は無くなり、トカゲ姿と思っていた魔王に会えた。
隣人に関する理子の願いは叶った。
そこまで考えて、覚る。
願いは叶い、元通りの生活になった、魔王と繋がるという、非現実的でファンタジーな邂逅は終わったのだ。
急に足から力が抜けて、理子はタンスの前に置いてある座布団上へ座り込む。
元通りの生活、魔王との時間が無くなるだけなのにそれを寂しいと感じるなんて、おかしい。
元々、世界が違う。
偶然部屋の壁が繋がらなければ出会う事はなかったのだ。
この先、仕事を続けるか退職となってもいずれはこの部屋から引っ越す事となる。
この部屋から引っ越せば魔王との関わりは終わる、それが早まっただけ。
(昨夜でさよならなら、せめて「ありがとう」は伝えたかったな)
スマートフォンのアラームが鳴るまでの間、理子はぼんやりと穴が無くなった白い壁を見詰めていた。
たっぷり睡眠をとり、お気に入りのカフェでサンドイッチのモーニングセットも食べられた。
体調も気分も上向きになった理子は、駅のトイレで「仕事をするぞ!」と気合いを入れてから職場へ向かった。
「おはようございま、す?」
気合い十分で部署へ足を踏み入れた理子は、フロア全体に漂う不穏な空気に戸惑い、挨拶の声は尻つぼみになっていく。
自分の席へ向かう途中、一年先輩の男性社員山本さんにどうしたのか小声で問いかけた。
「今日、田島係長が急に休みをとったんだけど、連絡をしてきたのが奥さんかららしくね。朝から課長の態度も変だし、俺らには理由も話してくれないのも何か変だなってなってさ。俺もさ、係長に見てもらいたい物があるのに連絡つかないから困っているんだよ」
頭を掻く山本さんの目の下には、はっきりと隈が出来ていて彼も理子程では無いが、田島係長から仕事を押し付けられていた事を思い出した。
山本さんが仕事を押し付けられた理由は、歓迎会の後から後輩の高木さんが彼にあからさまな好意を示していたのと、外見性格共に爽やか好青年な山本さんは外見もスマートで格好良いため、係長としたら警戒しているのだろう。
既婚者が嫉妬するなどおかしな話でも、田島係長としたら不倫相手が興味を持つ相手は潰したいのか。
田島係長が休みならば山本さんも平和で過ごせるし、今日は定時に帰れそうだと理子は安堵の息を吐いた。
課内に漂う不穏な空気は解消されないまま、朝から姿を見せなかった課長が疲れた顔でフロアへやって来たのは始業時刻から二時間以上経った時だった。