くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
「私が迎えに行かなきゃ、アホカップルだけじゃなく、これ幸いと理子に仕事を押し付けていた奴等をあんたは手伝っていたでしょ? 慌てて書類整理している奴等は自業自得なのよ。理子と山本君のここ二ヶ月間の出退勤記録だけでも、人事からみたらありえない状態なの。係長が退勤記録を誤魔化したとしても、防犯カメラの記録は消せないのよ」
人事部所属の、香織の有無を言わせない黒い笑顔は恐ろしくて、理子はコクコク頷くしか出来なかった。
「香織が手を回したの?」とは、とてもじゃないが聞けない。
「今日は定時退勤してゆっくり過ごしてね。今日は飲みに行くのは駄目よ! 早く寝ること」
「あー、ワカリマシタ」
どうやら、仕事帰りに立呑屋でも寄って行こうという考えは香織に読まれていたようだった。
「山田先輩……」
食堂へ向かっている理子は、背後から名字を呼ばれて振り返った。
振り返った先には、ふわふわな肩までの茶色の髪は乱れ、バッチリメイクが涙でぐちゃぐちゃになりアイメイクも崩れまくった、大分ホラーな顔になっている高木さんが立っていた。
「高木さん?」
目付きが危ない高木さんの後ろを歩くのは、疲れ果てた顔をしている課長。
何か用かと、理子が口を開く前に高木さんの目が四角く吊り上がった。
「アンタもいい気味だって思っているんでしょ! そうか……そうよね、アンタが奥さんにチクったのね⁉」
理子へ殺意すら感じさせる視線を向け、高木さんは廊下を走り出した。
「高木さん止めなさい!」
慌てて課長が高木さんを制止するが、鬼女の形相となった彼女の足は止まらない。
「チ、チクるって、何?」
怖い、逃げなければ危ないと、頭では分かっているのに、理子の体は直ぐに反応出来ない。
「アンタのせいで!」
掴みかかる高木さんに体が反応しきれずに、首を絞められることを覚悟した瞬間、理子の右耳にくっついている石がドクンッと脈打つのを感じた。
バチッ!
「きゃああ!!」
高木さんの指が理子の首へ触れる直前、静電気が弾けたような音が響き、彼女は後ろへ飛び退いた。
飛び退いた勢いで、高木さんは廊下に尻餅をつく。
バチッという音と共に高木さんの周囲に火花が散って見えた。
静電気にしては強力だし、後ろに飛び退いたように見えたが実際は弾き飛ばされた今のは一体何だ。
尻餅をついた高木さんの顔は、鬼女の表情から青ざめて今にも倒れそうなものへと変化していた。
「いやぁ! 化け物!」
見開いた目で高木さんは、理子を、正確には理子の横を見たままガタガタと震え出す。
高木さんの異常な様子に、困惑した課長は理子と彼女を交互に見た。
「理子、大丈夫? あの子、いきなりどうしたのよ」
香織に肩を叩かれて、ようやく理子は全身の緊張を緩めて息を吐き出せた。
「あらあら」
課長の後ろ、遠巻きにやり取りを見ていたスーツ姿の小柄の女性がツカツカと床に座り込む高木さんへ歩み寄る。
「自分は不倫女のくせに、主人と一緒に嫌がらせをしていた先輩に向かって化け物は無いでしょう」
フンッと鼻を鳴らし、女性、田島係長の奥さまは冷たい視線を高木さんへ向けた。
もう用はないと高木さんに背を向けた奥さまは、理子の前まで来るとゆっくり頭を下げた。
「山田さん、屑……いえ、主人が酷いことをして申し訳ありませんでした。本来ならば主人が謝罪をするべきなのですが、屑は今自由に動けない状態になっていますの。諸々の事が終わりましたら、改めて屑に謝罪をさせに伺います。貴女には何も落ち度はありませんもの」
奥さまの田島係長の呼び方が、途中から主人が屑へ変わってしまっていた。
奥さまによると、初めての育児で不安でいっぱいの中、田島係長は早く帰って育児を手伝うでもなく家事も全く手伝わず、仕事だと嘘をついて朝帰りを繰り返し女の子とイチャイチャしていたという。
夫として父親として酷過ぎる。
「長々ごめんなさい。今からお昼ご飯を食べられるのですよね? 私からの謝罪の気持ちとして受け取ってください。ご一緒の方とのお昼代にあててください」
「いえ、それは」
「これは主人の今月のお小遣いですの」
ウフフッと奥さまは可愛らしく、しかし口元だけの笑みを浮かべた。
「……ありがとうございます」
奥さまの圧力から封筒を受け取るしか無いと悟った理子は、背中に汗をかきつつ現金が入っているらしい封筒を受け取った。
たった半日で急激に変わる展開に目眩がしてきた理子は、ふと夢現で耳にした声を思い出した。
『リコ、我からの贈り物だ。お前に悪意を向けるもの全てから、お前を護ろう』
護ると言ったのは、人外のとてつもなく綺麗な魔王。確かに、彼の力はパワハラから、高木さんから護ってくれた。
知らぬ間に、ある意味最強の魔王の加護を手に入れたらしい。
(どうしよう……)
助けてもらえて嬉しい、よりも恐怖心の方が強い。この先どうしたらいいのかと、理子は頭を抱えた。
人事部所属の、香織の有無を言わせない黒い笑顔は恐ろしくて、理子はコクコク頷くしか出来なかった。
「香織が手を回したの?」とは、とてもじゃないが聞けない。
「今日は定時退勤してゆっくり過ごしてね。今日は飲みに行くのは駄目よ! 早く寝ること」
「あー、ワカリマシタ」
どうやら、仕事帰りに立呑屋でも寄って行こうという考えは香織に読まれていたようだった。
「山田先輩……」
食堂へ向かっている理子は、背後から名字を呼ばれて振り返った。
振り返った先には、ふわふわな肩までの茶色の髪は乱れ、バッチリメイクが涙でぐちゃぐちゃになりアイメイクも崩れまくった、大分ホラーな顔になっている高木さんが立っていた。
「高木さん?」
目付きが危ない高木さんの後ろを歩くのは、疲れ果てた顔をしている課長。
何か用かと、理子が口を開く前に高木さんの目が四角く吊り上がった。
「アンタもいい気味だって思っているんでしょ! そうか……そうよね、アンタが奥さんにチクったのね⁉」
理子へ殺意すら感じさせる視線を向け、高木さんは廊下を走り出した。
「高木さん止めなさい!」
慌てて課長が高木さんを制止するが、鬼女の形相となった彼女の足は止まらない。
「チ、チクるって、何?」
怖い、逃げなければ危ないと、頭では分かっているのに、理子の体は直ぐに反応出来ない。
「アンタのせいで!」
掴みかかる高木さんに体が反応しきれずに、首を絞められることを覚悟した瞬間、理子の右耳にくっついている石がドクンッと脈打つのを感じた。
バチッ!
「きゃああ!!」
高木さんの指が理子の首へ触れる直前、静電気が弾けたような音が響き、彼女は後ろへ飛び退いた。
飛び退いた勢いで、高木さんは廊下に尻餅をつく。
バチッという音と共に高木さんの周囲に火花が散って見えた。
静電気にしては強力だし、後ろに飛び退いたように見えたが実際は弾き飛ばされた今のは一体何だ。
尻餅をついた高木さんの顔は、鬼女の表情から青ざめて今にも倒れそうなものへと変化していた。
「いやぁ! 化け物!」
見開いた目で高木さんは、理子を、正確には理子の横を見たままガタガタと震え出す。
高木さんの異常な様子に、困惑した課長は理子と彼女を交互に見た。
「理子、大丈夫? あの子、いきなりどうしたのよ」
香織に肩を叩かれて、ようやく理子は全身の緊張を緩めて息を吐き出せた。
「あらあら」
課長の後ろ、遠巻きにやり取りを見ていたスーツ姿の小柄の女性がツカツカと床に座り込む高木さんへ歩み寄る。
「自分は不倫女のくせに、主人と一緒に嫌がらせをしていた先輩に向かって化け物は無いでしょう」
フンッと鼻を鳴らし、女性、田島係長の奥さまは冷たい視線を高木さんへ向けた。
もう用はないと高木さんに背を向けた奥さまは、理子の前まで来るとゆっくり頭を下げた。
「山田さん、屑……いえ、主人が酷いことをして申し訳ありませんでした。本来ならば主人が謝罪をするべきなのですが、屑は今自由に動けない状態になっていますの。諸々の事が終わりましたら、改めて屑に謝罪をさせに伺います。貴女には何も落ち度はありませんもの」
奥さまの田島係長の呼び方が、途中から主人が屑へ変わってしまっていた。
奥さまによると、初めての育児で不安でいっぱいの中、田島係長は早く帰って育児を手伝うでもなく家事も全く手伝わず、仕事だと嘘をついて朝帰りを繰り返し女の子とイチャイチャしていたという。
夫として父親として酷過ぎる。
「長々ごめんなさい。今からお昼ご飯を食べられるのですよね? 私からの謝罪の気持ちとして受け取ってください。ご一緒の方とのお昼代にあててください」
「いえ、それは」
「これは主人の今月のお小遣いですの」
ウフフッと奥さまは可愛らしく、しかし口元だけの笑みを浮かべた。
「……ありがとうございます」
奥さまの圧力から封筒を受け取るしか無いと悟った理子は、背中に汗をかきつつ現金が入っているらしい封筒を受け取った。
たった半日で急激に変わる展開に目眩がしてきた理子は、ふと夢現で耳にした声を思い出した。
『リコ、我からの贈り物だ。お前に悪意を向けるもの全てから、お前を護ろう』
護ると言ったのは、人外のとてつもなく綺麗な魔王。確かに、彼の力はパワハラから、高木さんから護ってくれた。
知らぬ間に、ある意味最強の魔王の加護を手に入れたらしい。
(どうしよう……)
助けてもらえて嬉しい、よりも恐怖心の方が強い。この先どうしたらいいのかと、理子は頭を抱えた。