くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
玄関扉を開けた先に立っていたのは、細身長身、ジャージにサンダル、刈り上げた明るい茶髪で整えられた眉に少し目付きの鋭い黒目のまだ若い、十代後半の幼さが残る男の子だった。
「今日隣に引っ越して来た鈴木太郎です。◯◇大の一年っす」
男の子が名乗ったのは、今時珍しいくらい平々凡々たる名前だ。
平凡な名前でも見た目は今時の若者。よく見ると、片耳にはピアスが3個もついている。
若さと新生活への希望溢れる、といった姿は今日出会った新卒新入社員と重なって見えた。
「大学生なんですね。私は山田といいます。よろしくお願いします。日中は仕事しているのであまり居ませんが、何か困った事があったら言って下さい」
「えっ、意外。年上のお姉さんなんだ。あ、これ、タオル。良かったら使って」
化粧をしていないと幼く見えると、周りから評される理子の顔をマジマジと見詰める鈴木君に、少し戸惑いつつもタオルの箱が入ったビニール袋を受け取って、軽く頭を下げた。
「じゃ、おやすみなさい」
にこやかに頭を下げて、鈴木君は隣室へ戻っていった
玄関ドアを閉めた理子は「あーあ」と息を吐いてしまった。
入居しているのは学生可のマンションのため、学生が入居しても問題は無い。
ただ、社会人と学生は生活の時間帯にズレが生じやすい。真面目な学生も多く、遊びに夢中なのは一時だけだと分かっているが、彼はきっとハズレの隣人だ。
先月引っ越して行った女の子は、彼氏が出来るたびに時間帯を問わず大声で通話をし、彼氏と半同棲状態になれば毎日盛っているようで、喘ぎ声がうるさかった。 社会人になってから彼氏がいない理子としては、まさに「静かにしろ!」と叫びたくなるくらい迷惑、という状態だったのだ。
鈴木君がどんな男子か今後の様子を見なければ分からないが、静かな夜を過ごさせてくれれば多少非常識でも何も言うまい。と、自分に言い聞かせるが、「夜分遅くにすいません」の一言も無いし、ずっと片手をズボンのポケットに入れっぱなしの時点で夜間の平穏、安眠は期待出来ないかもしれないと、頭が痛くなってきた。
受け取ったタオルをダイニングテーブルへ置いて、すっかり冷めてしまった牛丼をレンジへ入れた。
***
ダンッ!
乱暴にテーブルへ置かれたビールジョッキは空となり、理子は追加注文するために店員のお姉さんへ片手を挙げてアピールをした。
今日は週末、金曜日の夜。
仕事帰りのサラリーマンで賑わう、駅の高架下にある大衆居酒屋は社会人になってから隔週末の度に通っている、理子のお気に入りの店だ。
女性が好きそうなお洒落な隠れ家系の店よりも、賑やかな居酒屋の方が気楽とは自分でもどうかとは思う。
先程から愚痴をぶちまけているのは、理子の前に座る同期入社の香織。
すらりと背の高い彼女はまさにクールビューティーといった外見で、緩く波打つ肩までの黒髪を右耳にかけて小首を傾げる表情は、同い年の理子ですら「御姉様」と呼びたくなるくらい色っぽい。
幼い顔立ちで未成年者に間違えられる理子とは正反対な彼女。しかし、入社直後から意気投合して今では二人で旅行へ行くまでの仲になっていた。
一年ほど前に、香織に彼氏が出来てからは頻度が減ったとはいえ、お互いストレスが溜まってきたと感じれば今日の様な愚痴吐き飲みが開催されている。
「荒れているねー理子。お隣さんはそんなに激しいの?」
ガブガブ水のようにビールを飲み干す理子に、香織は苦笑いを浮かべた。
「今時な雰囲気イケメン風だとは思ったけど、即、彼女が出来るってどうなの? くー‼ 羨ましい!」
新年度が始まって早三週間。
仕事以上に理子のストレス源となっていたのは、自宅マンションの隣人である大学生の鈴木君。
彼は、大学へ入学したと同時に、今時のお洒落でキラキラした女の子と付き合いだしたのだ。
「今日隣に引っ越して来た鈴木太郎です。◯◇大の一年っす」
男の子が名乗ったのは、今時珍しいくらい平々凡々たる名前だ。
平凡な名前でも見た目は今時の若者。よく見ると、片耳にはピアスが3個もついている。
若さと新生活への希望溢れる、といった姿は今日出会った新卒新入社員と重なって見えた。
「大学生なんですね。私は山田といいます。よろしくお願いします。日中は仕事しているのであまり居ませんが、何か困った事があったら言って下さい」
「えっ、意外。年上のお姉さんなんだ。あ、これ、タオル。良かったら使って」
化粧をしていないと幼く見えると、周りから評される理子の顔をマジマジと見詰める鈴木君に、少し戸惑いつつもタオルの箱が入ったビニール袋を受け取って、軽く頭を下げた。
「じゃ、おやすみなさい」
にこやかに頭を下げて、鈴木君は隣室へ戻っていった
玄関ドアを閉めた理子は「あーあ」と息を吐いてしまった。
入居しているのは学生可のマンションのため、学生が入居しても問題は無い。
ただ、社会人と学生は生活の時間帯にズレが生じやすい。真面目な学生も多く、遊びに夢中なのは一時だけだと分かっているが、彼はきっとハズレの隣人だ。
先月引っ越して行った女の子は、彼氏が出来るたびに時間帯を問わず大声で通話をし、彼氏と半同棲状態になれば毎日盛っているようで、喘ぎ声がうるさかった。 社会人になってから彼氏がいない理子としては、まさに「静かにしろ!」と叫びたくなるくらい迷惑、という状態だったのだ。
鈴木君がどんな男子か今後の様子を見なければ分からないが、静かな夜を過ごさせてくれれば多少非常識でも何も言うまい。と、自分に言い聞かせるが、「夜分遅くにすいません」の一言も無いし、ずっと片手をズボンのポケットに入れっぱなしの時点で夜間の平穏、安眠は期待出来ないかもしれないと、頭が痛くなってきた。
受け取ったタオルをダイニングテーブルへ置いて、すっかり冷めてしまった牛丼をレンジへ入れた。
***
ダンッ!
乱暴にテーブルへ置かれたビールジョッキは空となり、理子は追加注文するために店員のお姉さんへ片手を挙げてアピールをした。
今日は週末、金曜日の夜。
仕事帰りのサラリーマンで賑わう、駅の高架下にある大衆居酒屋は社会人になってから隔週末の度に通っている、理子のお気に入りの店だ。
女性が好きそうなお洒落な隠れ家系の店よりも、賑やかな居酒屋の方が気楽とは自分でもどうかとは思う。
先程から愚痴をぶちまけているのは、理子の前に座る同期入社の香織。
すらりと背の高い彼女はまさにクールビューティーといった外見で、緩く波打つ肩までの黒髪を右耳にかけて小首を傾げる表情は、同い年の理子ですら「御姉様」と呼びたくなるくらい色っぽい。
幼い顔立ちで未成年者に間違えられる理子とは正反対な彼女。しかし、入社直後から意気投合して今では二人で旅行へ行くまでの仲になっていた。
一年ほど前に、香織に彼氏が出来てからは頻度が減ったとはいえ、お互いストレスが溜まってきたと感じれば今日の様な愚痴吐き飲みが開催されている。
「荒れているねー理子。お隣さんはそんなに激しいの?」
ガブガブ水のようにビールを飲み干す理子に、香織は苦笑いを浮かべた。
「今時な雰囲気イケメン風だとは思ったけど、即、彼女が出来るってどうなの? くー‼ 羨ましい!」
新年度が始まって早三週間。
仕事以上に理子のストレス源となっていたのは、自宅マンションの隣人である大学生の鈴木君。
彼は、大学へ入学したと同時に、今時のお洒落でキラキラした女の子と付き合いだしたのだ。