くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
戸惑う理子の気配を感じ取った伊東先輩は、「そうそう」と付け加える。
「参加メンバーは、私、田中君、あと山本君。私の知り合いの子は彼氏持ちだから、山田さんが来てくれると助かるんだー。今、恋人持ちや既婚者を誘いにくい雰囲気でしょ? 協力してくれないかな?」
「お願い」と伊東先輩は両手を合わせる。
田島係長と高木さんの不倫問題があったせいで、上からの通達はされていないが職場での恋愛話や社内恋愛は控えるようにしよう、といった空気が流れていた。
情報通である隣の席の女性社員の情報では、伊東先輩が後輩の田中君の事を気にしているのを以前から知っていた。
吊り目だがなかなか美人な伊東先輩に、何かと世話を焼かれている田中君も満更でもない様子だし、伊東先輩としたらあと一押しとして食事に誘いたいのだろう。
今の職場の状況から一対一は不味いと判断して、理子と山本さんも誘いカモフラージュとするつもりなのか。
「そういうことですか。分かりました、協力します」
定時退勤して夕飯だけ食べて、早目に帰れば日付が変わるまでには余裕で間に合うか。
(先輩の恋愛に協力するのも、職場での付き合いも大事だよね)
愛想笑いを浮かべ、無意識に理子はそっと耳に触れていた。
「山田さんって、よく耳を触っているよね。癖?」
不思議そうに伊東先輩は自分の右耳を人差し指で触る。
「触っていましたか? 全然気付かなかったです。これは癖、なのかな」
(魔王様は、この石は他の人には見えないって言っていたけど)
他の人、正しくは魔力の無い理子の住む世界の人には見えない、魔法の玉石。
鏡や硝子に映った耳を彩る赤い色を見る度に、石を施した魔王の瞳の色を思い出していた。
ベッドの縁に腰掛けた理子は、傍に立つ魔王を見上げていた。
「私の耳についている赤いのは、魔王様がつけたの?」
風呂上がりの状態で召喚された理子の髪は、魔王の魔法によってすでに乾かされており、首を動かす度に仄かにカモミールのリンゴに似た香りが広がる。
「……ああ。我とリコの繋がりとなり害なすモノから護る、柘榴石の玉だ。それは、お前と魔力の高い者以外には見えない」
魔王の長い指先が伸びてきて、乾いた理子の髪を右耳にかける。
露になった右耳の赤い石に、魔王の指先が触れた。
「繋がりがあれば、リコが何処にいようと喚べる」
赤い石から耳朶、頬へと滑る魔王の指先がくすぐったくて、理子は目を細めた。
(恋人なら束縛とか所有の印に聞こえなくもないけど……私は愛玩動物扱いだから、首輪かマイクロチップ? みたいなものなのだろうな)
「……さん。山田さん?」
ハッとなった理子は顔を上げた。
慌てて「はい」と返事をして、伊東先輩から手渡された連絡先が書かれた付箋をスカートのポケットへ入れる。
「じゃあ、今日の夜七時に現地集合でいい?」
「あ、はい。分かりました」
理子が頷くのを確認した伊東先輩は、足取りも軽く給湯室から出ていったのだった。
昼休憩時に伊東先輩と打ち合わせし、仕事を終えた理子は待ち合わせ時間の夜七時ギリギリにお店の前へ着いた。
「山田さん、こっち」
店先に立って待っていた一つ先輩の山本さんが、理子の姿を見つけて片手を上げる。
職場では、かっちりとボタンを止めてシャツを着ている長身の彼が勤務時間外だからか、第二ボタンまで開けて少しワイシャツを着崩しているのは新鮮に見えた。
「すみません、遅くなりました」
「いいって。本当に後輩って大変だよね」
軽く頭を下げた理子に、山本さんは爽やかな笑みを返した。
「参加メンバーは、私、田中君、あと山本君。私の知り合いの子は彼氏持ちだから、山田さんが来てくれると助かるんだー。今、恋人持ちや既婚者を誘いにくい雰囲気でしょ? 協力してくれないかな?」
「お願い」と伊東先輩は両手を合わせる。
田島係長と高木さんの不倫問題があったせいで、上からの通達はされていないが職場での恋愛話や社内恋愛は控えるようにしよう、といった空気が流れていた。
情報通である隣の席の女性社員の情報では、伊東先輩が後輩の田中君の事を気にしているのを以前から知っていた。
吊り目だがなかなか美人な伊東先輩に、何かと世話を焼かれている田中君も満更でもない様子だし、伊東先輩としたらあと一押しとして食事に誘いたいのだろう。
今の職場の状況から一対一は不味いと判断して、理子と山本さんも誘いカモフラージュとするつもりなのか。
「そういうことですか。分かりました、協力します」
定時退勤して夕飯だけ食べて、早目に帰れば日付が変わるまでには余裕で間に合うか。
(先輩の恋愛に協力するのも、職場での付き合いも大事だよね)
愛想笑いを浮かべ、無意識に理子はそっと耳に触れていた。
「山田さんって、よく耳を触っているよね。癖?」
不思議そうに伊東先輩は自分の右耳を人差し指で触る。
「触っていましたか? 全然気付かなかったです。これは癖、なのかな」
(魔王様は、この石は他の人には見えないって言っていたけど)
他の人、正しくは魔力の無い理子の住む世界の人には見えない、魔法の玉石。
鏡や硝子に映った耳を彩る赤い色を見る度に、石を施した魔王の瞳の色を思い出していた。
ベッドの縁に腰掛けた理子は、傍に立つ魔王を見上げていた。
「私の耳についている赤いのは、魔王様がつけたの?」
風呂上がりの状態で召喚された理子の髪は、魔王の魔法によってすでに乾かされており、首を動かす度に仄かにカモミールのリンゴに似た香りが広がる。
「……ああ。我とリコの繋がりとなり害なすモノから護る、柘榴石の玉だ。それは、お前と魔力の高い者以外には見えない」
魔王の長い指先が伸びてきて、乾いた理子の髪を右耳にかける。
露になった右耳の赤い石に、魔王の指先が触れた。
「繋がりがあれば、リコが何処にいようと喚べる」
赤い石から耳朶、頬へと滑る魔王の指先がくすぐったくて、理子は目を細めた。
(恋人なら束縛とか所有の印に聞こえなくもないけど……私は愛玩動物扱いだから、首輪かマイクロチップ? みたいなものなのだろうな)
「……さん。山田さん?」
ハッとなった理子は顔を上げた。
慌てて「はい」と返事をして、伊東先輩から手渡された連絡先が書かれた付箋をスカートのポケットへ入れる。
「じゃあ、今日の夜七時に現地集合でいい?」
「あ、はい。分かりました」
理子が頷くのを確認した伊東先輩は、足取りも軽く給湯室から出ていったのだった。
昼休憩時に伊東先輩と打ち合わせし、仕事を終えた理子は待ち合わせ時間の夜七時ギリギリにお店の前へ着いた。
「山田さん、こっち」
店先に立って待っていた一つ先輩の山本さんが、理子の姿を見つけて片手を上げる。
職場では、かっちりとボタンを止めてシャツを着ている長身の彼が勤務時間外だからか、第二ボタンまで開けて少しワイシャツを着崩しているのは新鮮に見えた。
「すみません、遅くなりました」
「いいって。本当に後輩って大変だよね」
軽く頭を下げた理子に、山本さんは爽やかな笑みを返した。