くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
終電間際の地下鉄電車に乗り、自宅へ辿り着いた時には日付が変わる直前だった。
駅まで走って来た理子は、息を切らせながら玄関扉を開けてパンプスを脱ぐ。
部屋へと上がりバックを床に下ろした瞬間、足元に召喚の魔方陣が展開して理子はハッと息を飲む。
「ちょっと、待って!」
走ってきたため汗だくで、まだお風呂に入っていない。
手足をバタつかせて抵抗するが、理子の体は魔方陣から放たれた朱金の光に絡めとられてしまうのだった。
魔方陣に吸い込まれた理子はトンネルを真っ逆さまに落下していく。
空気が変わったのが肌に伝わり、瞑っていた目蓋を開くと視界に飛び込んできたのは、毛足の長い絨毯だった。
(うわぁ顔面ダイブ!)
激突の衝撃に身構えた理子の体を、伸びてきた腕が抱き止める。
がくんっ
体が前のめりにとなり、足先が床に着かずに浮いた状態で止まる。ふんわりと香る花の香りが鼻腔を擽り、理子は胸に回された腕に触れた。
「魔王、さま?」
いつもと違う召喚着地地点に、どうかしたのかと召喚主の美貌の魔王を見上げれば、彼は眉間に皺を寄せた渋い表情をしていた。
胸に回された腕が外され、ゆっくりと床に足が着く。
「匂うな」
「匂う?」
何時もと違ってお風呂に入って無いし、走って帰って来たから汗臭いのか。
コッソリと、自分の臭いを嗅いで確認していた理子の手首を魔王は掴む。
「色欲を持った者の残り香だな」
「色欲? 何ですかそれは?」
聞きなれない言葉に、何の事か分からず理子は首を傾げる。
理子の髪を一房手に取った魔王の瞳が鋭く細められた。
「誰だ? お前に触れた男は」
赤い瞳に冷たい光が宿り、何時もより低くなる声に、理子は上げそうになった悲鳴を喉の奥へと押し込める。
「誰って、会社の人とご飯を食べに行っただけだけど……」
恐い。
すっかり慣れてしまっていたけれど、彼は恐ろしい力を持つ魔王だった。
放たれる強烈な圧力にすくみ上がった理子は、背筋が寒くなり体が動かなくなった。
「特に疚しいことは何も無いし、私の付き合いに魔王様が怒る理由はないのでは、ひっ」
勇気を振り絞って言った台詞は、刃の様に鋭い眼差しで睨まれてしまい最後まで言えなかった。
コンコンコン
室外から叩かれたノックの音に、理子は飛び上がりそうになった。
扉へ魔王が視線を移しため、彼から発せられる圧力が少しだけ和らいで浅い呼吸を繰り返す。
「入れ」
扉の向こうにいる者へ、高慢な口調で魔王は短く命ずる。
「「失礼いたします」」
足音もなく室内へ入って来たのは、二人の女性。焦げ茶色の髪を結い上げてホワイトブリムを装着用し、エプロンドレスを着た所謂メイドだった。
二人とも顔色は青白く、耳は尖っているから魔族とかいう方々なのだろう。
整った綺麗な顔立ちなのに、作り物めいて見えるのは彼女達が無表情だからか。
二人のメイドは魔王の前へ歩み寄ると、深々と頭を下げた。
「湯浴みを」
間近く告げて、魔王は理子の肩をトンッと軽く押す。
「きゃあっ」
軽い力で押されたはずなのに、理子の体はメイド達の元へ真っ直ぐに跳ばされてしまった。
「「かしこまりました」」
頭を垂れるメイド達によって、理子は両腕を抱え込まれて捕らえられた。
華奢な腕から考えられないくらいの強い力で、彼女達は理子の腕を抱える。
「えっ? な、何?」
両脇を抱えられて、またしても理子の両足は宙に浮く。足をばたつかせても、両脇を抱えるメイドの腕は全く緩まず、彼女達は何も答えてくれない。
引っ立てられるように、理子は隣室へと連れていかれるのであった。
駅まで走って来た理子は、息を切らせながら玄関扉を開けてパンプスを脱ぐ。
部屋へと上がりバックを床に下ろした瞬間、足元に召喚の魔方陣が展開して理子はハッと息を飲む。
「ちょっと、待って!」
走ってきたため汗だくで、まだお風呂に入っていない。
手足をバタつかせて抵抗するが、理子の体は魔方陣から放たれた朱金の光に絡めとられてしまうのだった。
魔方陣に吸い込まれた理子はトンネルを真っ逆さまに落下していく。
空気が変わったのが肌に伝わり、瞑っていた目蓋を開くと視界に飛び込んできたのは、毛足の長い絨毯だった。
(うわぁ顔面ダイブ!)
激突の衝撃に身構えた理子の体を、伸びてきた腕が抱き止める。
がくんっ
体が前のめりにとなり、足先が床に着かずに浮いた状態で止まる。ふんわりと香る花の香りが鼻腔を擽り、理子は胸に回された腕に触れた。
「魔王、さま?」
いつもと違う召喚着地地点に、どうかしたのかと召喚主の美貌の魔王を見上げれば、彼は眉間に皺を寄せた渋い表情をしていた。
胸に回された腕が外され、ゆっくりと床に足が着く。
「匂うな」
「匂う?」
何時もと違ってお風呂に入って無いし、走って帰って来たから汗臭いのか。
コッソリと、自分の臭いを嗅いで確認していた理子の手首を魔王は掴む。
「色欲を持った者の残り香だな」
「色欲? 何ですかそれは?」
聞きなれない言葉に、何の事か分からず理子は首を傾げる。
理子の髪を一房手に取った魔王の瞳が鋭く細められた。
「誰だ? お前に触れた男は」
赤い瞳に冷たい光が宿り、何時もより低くなる声に、理子は上げそうになった悲鳴を喉の奥へと押し込める。
「誰って、会社の人とご飯を食べに行っただけだけど……」
恐い。
すっかり慣れてしまっていたけれど、彼は恐ろしい力を持つ魔王だった。
放たれる強烈な圧力にすくみ上がった理子は、背筋が寒くなり体が動かなくなった。
「特に疚しいことは何も無いし、私の付き合いに魔王様が怒る理由はないのでは、ひっ」
勇気を振り絞って言った台詞は、刃の様に鋭い眼差しで睨まれてしまい最後まで言えなかった。
コンコンコン
室外から叩かれたノックの音に、理子は飛び上がりそうになった。
扉へ魔王が視線を移しため、彼から発せられる圧力が少しだけ和らいで浅い呼吸を繰り返す。
「入れ」
扉の向こうにいる者へ、高慢な口調で魔王は短く命ずる。
「「失礼いたします」」
足音もなく室内へ入って来たのは、二人の女性。焦げ茶色の髪を結い上げてホワイトブリムを装着用し、エプロンドレスを着た所謂メイドだった。
二人とも顔色は青白く、耳は尖っているから魔族とかいう方々なのだろう。
整った綺麗な顔立ちなのに、作り物めいて見えるのは彼女達が無表情だからか。
二人のメイドは魔王の前へ歩み寄ると、深々と頭を下げた。
「湯浴みを」
間近く告げて、魔王は理子の肩をトンッと軽く押す。
「きゃあっ」
軽い力で押されたはずなのに、理子の体はメイド達の元へ真っ直ぐに跳ばされてしまった。
「「かしこまりました」」
頭を垂れるメイド達によって、理子は両腕を抱え込まれて捕らえられた。
華奢な腕から考えられないくらいの強い力で、彼女達は理子の腕を抱える。
「えっ? な、何?」
両脇を抱えられて、またしても理子の両足は宙に浮く。足をばたつかせても、両脇を抱えるメイドの腕は全く緩まず、彼女達は何も答えてくれない。
引っ立てられるように、理子は隣室へと連れていかれるのであった。