くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
 前菜1から始まり、前菜2、スープ、魚介のメイン料理、口直しのソルベ、肉類のメイン料理、デザートの甘いケーキ。
 全ての料理が美味しくて、残さず食べていた理子の胃は満腹を通り越して限界寸前になった。

(く、苦しい……早くスカートを脱ぎたい)

 給仕係の男性が淹れてくれた食後の紅茶は後味が爽やかで、はち切れんばかりの胃にすんなり入っていった。

「凄く美味しかったです。ありがとうございます」

 にこりっと給仕係の男性に笑いかければ、彼は体を揺らして驚きの表情となる。
 お礼を伝えただけで吃驚される、大袈裟な反応に首を傾げてしまった。



「失礼いたします」
「これを……」

 食後の紅茶を飲んでまったりとしている理子に、遠慮した声でメイド達は畳んだ服を差し出した。

 見覚えがある服は一昨日、此処でお風呂に入った時に脱いだ服。
受け取った服は洗濯され、石鹸とお日様の良い香りがしている。
綺麗に畳んである服には可愛らしくリボンを掛けられ、まるでプレゼントの品。

「私の服? 洗ってくれたんですね。ありがとうございます。リボンも可愛い」

 見た目も可愛らしいし、メイド達の心遣いが嬉しい。
 喜ぶ理子を見たメイド達はポッと頬を染めてはにかんだ。

「私達ごときに勿体無い御言葉でございます」
「私達こそ、魔王様の寵姫様にお仕えできるなど……誠、身に過ぎた光栄な事でございます」

 うっとりとした表情で言うメイド達に、理子はぱちくりと目を瞬かせた。

「ちょうき?」

(ちょうき、とは何の事? 長期、長木……短期の反対という意味?)

「えーっと、ちょうきってどういう事ですか?」

 まさか、“魔王様”とそういう関係の意味では無いだろうな、と思いつつ理子は二人に尋ねる。

「貴女様は、魔王様の魔力をその身に与えられている上に所有、寵愛の印まで授かっていらっしゃる、唯一のお方なのです」
「「魔王様の寵姫様」」

 口を揃えて言われ、理子は引きつった笑顔のまま硬直する。

どうやら知らぬ間に抱き枕から寵姫へとランクアップしたらしい。
物から人のカテゴリーに入ったのは喜ばしいが、寵姫とはどういうことかと理子は頭を抱えた。

 寵姫。
 魔族の方々から自分はそういった扱いだとされているのか。そんな馬鹿なことがあるのかと、理子は食事の紅茶を飲み干した後も頭を抱えて唸る。

(寵姫って、権力者の妾とかお気に入りって意味だよね。私が寵愛かぁ)

 恋人でも夫婦でも無い男女が、添い寝する関係ってのがおかしいとは思っていた。

(魔王様が部屋へ戻って来たら、私達の関係は勘違いされる上にやっぱりおかしいと伝えてみよう)

 もしやこの国の感覚では、体の関係は無くとも抱き枕の扱いでも側に居ることを許した異性がいたら、寵愛していることになるのか。
 美貌の魔王様の寵愛を受けるとか、乙女的には美味しい展開だろうけれど彼は人じゃないし、魔族の王様だし平穏で平凡な生活に憧れている理子には魔王様と同居する生活は想像つかない。

 特に取り柄もない平凡な人間の自分が年を取って寿命を終えるのと、魔王に飽きられて捨てられるのは何方が先だろう。
 ほどほどに働いて貯金を貯めて、恋愛かお見合い結婚して平均的な家庭を築くという、ささやかな将来を夢見ていたのに何を間違ったのか魔王の寵姫だと勘違いされるとは。

(魔王様、まだ帰って来ないのね)

 メイド達は、魔王が部屋に戻って来そうになったら知らせてくれると言っていた。
 
 まだ戻って来ないと判断し、スカートのウエスト部のファスナー外した理子は、ようやく楽になった腹部をそっと撫でた。
< 50 / 153 >

この作品をシェア

pagetop