くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
「私の国は魔力の概念は無いから、自然に咲く青い薔薇は無いかな。少なくとも私の知る範囲では。最近になって、科学の力で遺伝子、他の青い花と交配させてやっと造られたみたいだけど……こんなに鮮やかな青色は初めてで、薔薇だと思うと不思議な感じがしますね」
以前、立ち寄った花屋で見た青い薔薇は青というより青紫色近かった気がする。
「此処は、先代魔王の王妃が造らせた薔薇園だ。王妃の魔力がまだ残っているため青い薔薇が咲く」
メイド達も先代魔王の王妃様が造った薔薇園だと言っていた。先代魔王は今の魔王の父親だから、王妃は魔王の母親か。
「リコは、花に興味があるのか?」
「興味というか、綺麗だなぁって思って」
「気に入ったのなら、お前の好む様に造り替えさせよう」
「へっ? 作り替える?」
さらりと吃驚する事を言われて、理子は薔薇園と魔王を交互に見てしまった。
花壇の花を入れ換えるのとは違い、作り替えるにはスケールが大きすぎる。
“王妃の薔薇園”を作り替えるだなんて、畏れ多い、否、これ以上の特別待遇は非常に不味いのではないか。
「いやいや、王妃様、魔王様のお母さんのための場所なのだからそのままにした方がいいんじゃないかな」
やんわりとお断りしようとして、理子は気付いてしまった。魔王の赤い瞳に暗い色が混じっていたのを。
「あの女が母親だと?」
底冷えする程冷たい、刃物が放つような鋭い光が魔王の瞳に宿る。理子から目を逸らした魔王は、無言のまま歩き出した。
(お母さんの話は地雷だったのかな? まさかのマザコン?)
刃物みたいな冷たい光を宿した瞳が恐くて、何も言えずに理子は手を引かれたまま歩く。
薔薇園の奥に設置された日本風なら東屋、洋風に言うならガゼボに着くと、魔王は足を止めて理子の手を離した。
ガゼボには寝転がれそうな、しっかりとした造りの長いベンチが置かれていた。ベンチにはふかふかな真新しいクッションが並ぶ。偶然ではなく、メイド達が先回りして用意したのだろう。
「リコ、其処に」
魔王に言われた通り理子はベンチの端に座る。
ふかふかのクッションを背もたれとの間に挟めば座りやすく、素晴らしい配慮をありがとうと、メイド達に礼を伝えたくなった。
「えっ? ちょっと、魔王様」
魔王が隣に座り、突然の事に理子は焦る。隣に座った魔王は焦る理子の膝に頭を乗せ、ベンチに横になったのだ。
「膝を貸せ」
短く命じて、仰向けに寝転んだ魔王は目蓋を閉じる。
膝枕よりもクッションを枕にして寝た方が首や肩は楽だと思うのだが、彼は理子の膝から頭を下ろそうとしない。
「……魔王様、疲れているの?」
昼寝をしたいのならば寝室に戻ればいいのに、ガゼボで小休止したくなるくらい執務で疲れたのか。
「昨夜は、寝付きが……悪かった」
目蓋を閉じたまま答える、魔王の声色は半ば微睡みに入っていて、理子は初めて見る寝顔を見下ろしぎゅっと自分の胸元を押さえた。
(まさか、昨夜は私がいなかったせいで、あまり寝られなかったというの?)
動揺は覚られないように抑え、膝を枕にして眠っている魔王の髪にそっと触れてみれば、見た目通りのサラサラで柔らかな髪の感触がした。
意外と幼く見える魔王の寝顔に、胸の奥がざわざわと落ち着かない。
(どうしよう)
綺麗で恐いけど、かわいらしい魔王。
眠る彼の髪以外の箇所にも触れたくなる。
どうやら完全に自分は、甘い薔薇の香りに酔ってしまったらしい。
綺麗でかわいらしい彼の、頬に、薄い唇に、首筋に、吸い付きたくなるなんて。本当に、どうかしている。
『外堀を埋められて気付いた時には逃げられなくなるよ』
脳裏に甦るのは、亜子が話していた“ヤンデレ”のこと。
(どうしよう、どうしよう、私……)
今の状態は、既に逃げられる状態ではないのかもしれない。
魔王に枕扱いされて、抱く感情が文句では無く、彼に必要とされて彼の傍に在る理由が出来て少し嬉しいと思ってしまっているのだから。
悶々と続く理子の自問自答は、魔王が目を覚ますまでの間続いた。
以前、立ち寄った花屋で見た青い薔薇は青というより青紫色近かった気がする。
「此処は、先代魔王の王妃が造らせた薔薇園だ。王妃の魔力がまだ残っているため青い薔薇が咲く」
メイド達も先代魔王の王妃様が造った薔薇園だと言っていた。先代魔王は今の魔王の父親だから、王妃は魔王の母親か。
「リコは、花に興味があるのか?」
「興味というか、綺麗だなぁって思って」
「気に入ったのなら、お前の好む様に造り替えさせよう」
「へっ? 作り替える?」
さらりと吃驚する事を言われて、理子は薔薇園と魔王を交互に見てしまった。
花壇の花を入れ換えるのとは違い、作り替えるにはスケールが大きすぎる。
“王妃の薔薇園”を作り替えるだなんて、畏れ多い、否、これ以上の特別待遇は非常に不味いのではないか。
「いやいや、王妃様、魔王様のお母さんのための場所なのだからそのままにした方がいいんじゃないかな」
やんわりとお断りしようとして、理子は気付いてしまった。魔王の赤い瞳に暗い色が混じっていたのを。
「あの女が母親だと?」
底冷えする程冷たい、刃物が放つような鋭い光が魔王の瞳に宿る。理子から目を逸らした魔王は、無言のまま歩き出した。
(お母さんの話は地雷だったのかな? まさかのマザコン?)
刃物みたいな冷たい光を宿した瞳が恐くて、何も言えずに理子は手を引かれたまま歩く。
薔薇園の奥に設置された日本風なら東屋、洋風に言うならガゼボに着くと、魔王は足を止めて理子の手を離した。
ガゼボには寝転がれそうな、しっかりとした造りの長いベンチが置かれていた。ベンチにはふかふかな真新しいクッションが並ぶ。偶然ではなく、メイド達が先回りして用意したのだろう。
「リコ、其処に」
魔王に言われた通り理子はベンチの端に座る。
ふかふかのクッションを背もたれとの間に挟めば座りやすく、素晴らしい配慮をありがとうと、メイド達に礼を伝えたくなった。
「えっ? ちょっと、魔王様」
魔王が隣に座り、突然の事に理子は焦る。隣に座った魔王は焦る理子の膝に頭を乗せ、ベンチに横になったのだ。
「膝を貸せ」
短く命じて、仰向けに寝転んだ魔王は目蓋を閉じる。
膝枕よりもクッションを枕にして寝た方が首や肩は楽だと思うのだが、彼は理子の膝から頭を下ろそうとしない。
「……魔王様、疲れているの?」
昼寝をしたいのならば寝室に戻ればいいのに、ガゼボで小休止したくなるくらい執務で疲れたのか。
「昨夜は、寝付きが……悪かった」
目蓋を閉じたまま答える、魔王の声色は半ば微睡みに入っていて、理子は初めて見る寝顔を見下ろしぎゅっと自分の胸元を押さえた。
(まさか、昨夜は私がいなかったせいで、あまり寝られなかったというの?)
動揺は覚られないように抑え、膝を枕にして眠っている魔王の髪にそっと触れてみれば、見た目通りのサラサラで柔らかな髪の感触がした。
意外と幼く見える魔王の寝顔に、胸の奥がざわざわと落ち着かない。
(どうしよう)
綺麗で恐いけど、かわいらしい魔王。
眠る彼の髪以外の箇所にも触れたくなる。
どうやら完全に自分は、甘い薔薇の香りに酔ってしまったらしい。
綺麗でかわいらしい彼の、頬に、薄い唇に、首筋に、吸い付きたくなるなんて。本当に、どうかしている。
『外堀を埋められて気付いた時には逃げられなくなるよ』
脳裏に甦るのは、亜子が話していた“ヤンデレ”のこと。
(どうしよう、どうしよう、私……)
今の状態は、既に逃げられる状態ではないのかもしれない。
魔王に枕扱いされて、抱く感情が文句では無く、彼に必要とされて彼の傍に在る理由が出来て少し嬉しいと思ってしまっているのだから。
悶々と続く理子の自問自答は、魔王が目を覚ますまでの間続いた。