くたびれOL、魔王様の抱き枕を拝命いたしました!?
ブーブーブー
今度は、香織のスマートフォンが振動してメッセージの着信を告げる。
スマートフォンの画面を確認した香織の眉間に皺が寄った。
「まーくん、まだ接待飲み会中だって」
「接待、というか交流を深めるためにの飲み会も仕事のうちでしょ?」
このやり取りは何度目だろうか。
接待飲み会が終わらないせいで、お休みなさいのやり取りが出来ない、と香織は嘆いていた。
仲の良い彼女達が少しだけ羨ましくて、理子は苦笑いを浮かべる。
「どうせこの後はお姉ちゃんのいるお店を行くんだよ。まったく男ってやつは!」
鼻息荒く言い放ち、香織は目を三角に吊り上げる。
空になったガラスのコップに冷酒を注いで、香織は一気に煽った。
「理子はさぁ、どうなの?」
急に話を振られた理子は「何か?」と顔を上げ、上半身を仰け反らせた。
身を乗り出して問う香織の目が据わっていて、理子は若干引きつつも答える。
「将来性もあって、良きお父さんになれそうな山本さんに突っ走れない理由になっているのは、他に気になる人がいるからでしょ?」
「気になる人……」
月曜日の仕事帰りに二人で飲んだ時に、そんなことを言った気もする。
気になる人など「いない」と言いかけて、理子は小さく首を横に振る。
そろそろ、しっかりと向き合わなければいけない。彼にも自分の気持ちにも。
「うん。だから困っている」
気にしないようにしていたのに、毎晩強制的に彼方へ喚んでくれるから気になる気持ちが、惹かれていく心が抑えられなくなる。
彼のことが気になってもっと一緒に居たいと、彼に触れて欲しいと思うのは、駄目なのに。
「どんな人なの?」
俯く理子の沈んだ姿に、苛立っていた香織は何時もと同じ落ち着いた口調に戻る。
「知り合ったのは偶然なんだよ。偶然、繋がっちゃった人。ムカつくくらい美形で色気があって意地悪だけど、優しい人。田島係長との事で参っていた時に、ずっと話を聞いてくれたの」
「へーそんな人がいたの? あの時に支えてくれた人なら、理子が好きになって当然じゃないの。もー教えてよ」
最初はお隣の鈴木君だと思い込んでいたし、彼が魔王だと分かった後は自分でも現実味が無い状況だと思えて、誰にも言えなかった。
今でもどうして異世界の魔王と繋がったのかが分からない。
繋がった事には感謝しているけれど、時折、自分は夢を見ているのではないかとすら思ってしまっていた。
「ごめんね。その人、外人さんだし私とは住む世界も常識も違の。今だけで今後は関わることもないって、女として見られていないと思っていたから」
彼方は異世界だし住む世界も違う。人外とは言えずに外人さんにしておいた。
「外人さん? じゃあ、遠距離ってこと? ネット上で知り合ったの? 大丈夫? 騙されてない? 会ったことあるの? 理子はボケてるから心配なのよ」
ネットで知り合ったと思ったらしい香織は、険しい表情のまま質問を投げ掛ける。
「遠距離、かな? ネット上じゃなくてちゃんと会っているよ」
毎晩、彼の寝室で会っている。とは言えない。
納得しきれないのか、訝しそうな目付きのまま香織はテーブルへ頬杖をついた。
「美形の外人ねぇ、写真は無いの? お名前は何さん?」
「写真、そういえば無いや。名前は……」
ハッ、と気が付いた。
今まで気にしていなかったが、魔王の名前を知らない。
彼を呼ぶのに不自由していなかったから、名前を聞くのを忘れていた。
「ずっとあだ名みたいなもので呼んでいたから、本名を聞き忘れていたな……」
香織は「はぁ?」と呆れ果てたといった声を出す。
「は? 理子ったら、名前は基本中の基本じゃない。まぁ理子らしいといえばらしいか。で、あだ名って何よ?」
「魔王様」
口に出して、理子は恥ずかしくなった。
渾名が魔王様とか、此方の世界では色々拗らせた、ちょっとアレな人みたいだ。
「え? それは……外人さんだから、ちょっと変わった人なの?」
吃驚したのか笑いを堪えているのか、香織も口元をひきつらせている。
「うん、そんな感じかな。私も最初は中二病を患っているのかと思ったし」
「魔王様はいくらなんでも無いわ。外で呼ぶのは恥ずかしいし、名前を教えてもらいなよ」
分かってはいたが香織の反応から、此方の世界では魔王様呼びは引くと改めて分かった。
次に召喚された時にでも、魔王の名前を教えてもらわなければ。
眉間に皺を寄せて考え込む理子に、香織は柔らかく笑いかける。
「ねえ、理子。名前を教えてもらってさ、彼を魔王様じゃなくて名前で呼んでみてごらんよ。彼が喜んでくれたり好意的にとってくれたら、少なくとも脈はあるって事よ」
「私が、名前を呼んだら……?」
ぱちくりと、理子は何度も目を瞬かせてしまった。
自分が魔王の名前を呼ぶのかと、読んだ時のことを想像して頬に熱が集中する。
「理子、顔真っ赤」
「もぉ~」
茶化してくる香織に、理子の顔は更に熱を持つ。
たかが魔王の名前を呼ぶだけなのに、一体どうしてしまったのかと、理子は熱い頬を両手で覆い隠した。
今度は、香織のスマートフォンが振動してメッセージの着信を告げる。
スマートフォンの画面を確認した香織の眉間に皺が寄った。
「まーくん、まだ接待飲み会中だって」
「接待、というか交流を深めるためにの飲み会も仕事のうちでしょ?」
このやり取りは何度目だろうか。
接待飲み会が終わらないせいで、お休みなさいのやり取りが出来ない、と香織は嘆いていた。
仲の良い彼女達が少しだけ羨ましくて、理子は苦笑いを浮かべる。
「どうせこの後はお姉ちゃんのいるお店を行くんだよ。まったく男ってやつは!」
鼻息荒く言い放ち、香織は目を三角に吊り上げる。
空になったガラスのコップに冷酒を注いで、香織は一気に煽った。
「理子はさぁ、どうなの?」
急に話を振られた理子は「何か?」と顔を上げ、上半身を仰け反らせた。
身を乗り出して問う香織の目が据わっていて、理子は若干引きつつも答える。
「将来性もあって、良きお父さんになれそうな山本さんに突っ走れない理由になっているのは、他に気になる人がいるからでしょ?」
「気になる人……」
月曜日の仕事帰りに二人で飲んだ時に、そんなことを言った気もする。
気になる人など「いない」と言いかけて、理子は小さく首を横に振る。
そろそろ、しっかりと向き合わなければいけない。彼にも自分の気持ちにも。
「うん。だから困っている」
気にしないようにしていたのに、毎晩強制的に彼方へ喚んでくれるから気になる気持ちが、惹かれていく心が抑えられなくなる。
彼のことが気になってもっと一緒に居たいと、彼に触れて欲しいと思うのは、駄目なのに。
「どんな人なの?」
俯く理子の沈んだ姿に、苛立っていた香織は何時もと同じ落ち着いた口調に戻る。
「知り合ったのは偶然なんだよ。偶然、繋がっちゃった人。ムカつくくらい美形で色気があって意地悪だけど、優しい人。田島係長との事で参っていた時に、ずっと話を聞いてくれたの」
「へーそんな人がいたの? あの時に支えてくれた人なら、理子が好きになって当然じゃないの。もー教えてよ」
最初はお隣の鈴木君だと思い込んでいたし、彼が魔王だと分かった後は自分でも現実味が無い状況だと思えて、誰にも言えなかった。
今でもどうして異世界の魔王と繋がったのかが分からない。
繋がった事には感謝しているけれど、時折、自分は夢を見ているのではないかとすら思ってしまっていた。
「ごめんね。その人、外人さんだし私とは住む世界も常識も違の。今だけで今後は関わることもないって、女として見られていないと思っていたから」
彼方は異世界だし住む世界も違う。人外とは言えずに外人さんにしておいた。
「外人さん? じゃあ、遠距離ってこと? ネット上で知り合ったの? 大丈夫? 騙されてない? 会ったことあるの? 理子はボケてるから心配なのよ」
ネットで知り合ったと思ったらしい香織は、険しい表情のまま質問を投げ掛ける。
「遠距離、かな? ネット上じゃなくてちゃんと会っているよ」
毎晩、彼の寝室で会っている。とは言えない。
納得しきれないのか、訝しそうな目付きのまま香織はテーブルへ頬杖をついた。
「美形の外人ねぇ、写真は無いの? お名前は何さん?」
「写真、そういえば無いや。名前は……」
ハッ、と気が付いた。
今まで気にしていなかったが、魔王の名前を知らない。
彼を呼ぶのに不自由していなかったから、名前を聞くのを忘れていた。
「ずっとあだ名みたいなもので呼んでいたから、本名を聞き忘れていたな……」
香織は「はぁ?」と呆れ果てたといった声を出す。
「は? 理子ったら、名前は基本中の基本じゃない。まぁ理子らしいといえばらしいか。で、あだ名って何よ?」
「魔王様」
口に出して、理子は恥ずかしくなった。
渾名が魔王様とか、此方の世界では色々拗らせた、ちょっとアレな人みたいだ。
「え? それは……外人さんだから、ちょっと変わった人なの?」
吃驚したのか笑いを堪えているのか、香織も口元をひきつらせている。
「うん、そんな感じかな。私も最初は中二病を患っているのかと思ったし」
「魔王様はいくらなんでも無いわ。外で呼ぶのは恥ずかしいし、名前を教えてもらいなよ」
分かってはいたが香織の反応から、此方の世界では魔王様呼びは引くと改めて分かった。
次に召喚された時にでも、魔王の名前を教えてもらわなければ。
眉間に皺を寄せて考え込む理子に、香織は柔らかく笑いかける。
「ねえ、理子。名前を教えてもらってさ、彼を魔王様じゃなくて名前で呼んでみてごらんよ。彼が喜んでくれたり好意的にとってくれたら、少なくとも脈はあるって事よ」
「私が、名前を呼んだら……?」
ぱちくりと、理子は何度も目を瞬かせてしまった。
自分が魔王の名前を呼ぶのかと、読んだ時のことを想像して頬に熱が集中する。
「理子、顔真っ赤」
「もぉ~」
茶化してくる香織に、理子の顔は更に熱を持つ。
たかが魔王の名前を呼ぶだけなのに、一体どうしてしまったのかと、理子は熱い頬を両手で覆い隠した。